IBAが保全活動にもたらした5つの変革

アオフタオハチドリ 写真提供: © Ondrej Prosicky

40年前、バードライフは欧州の鳥にとって最も重要な地域のデータベースをつくり始めました。以来、この考えは世界中に広がり、自然保護における意思決定の材料となり、類似の取り組みのモデルとなりました。今回は、最も成功した事例を5つご紹介します。

 

1979年当時、人々がちょうどフレアパンツをはくのを止めたばかりで、バードライフがまだICBP(国際鳥類保護会議)と呼ばれていた時、当時のスタッフたちは革新的な取り組みを開始しました。今では、当時は願いすらしなかったような大きな影響力を持つまでになりました。

IBA(重要生息環境)は、当時EEC(欧州経済共同体)と呼ばれていた現在のEU(欧州連合)を起源としています。1979年、EECは野鳥指令を採択しました。これは全ての加盟国に鳥にとって重要な生息地を定め保全するよう求めるものでした。しかし、その直後に、どこが鳥にとって重要な地域なのかほとんどわかっていないことが明らかになりました。そうしてバードライフの出番となったのです。私たちは重要な生息地を選定する基準を考え出し、これを実践しました。

1994年には、IBAは世界中に広がり始めました。現在では13,000以上のIBAがあり、地表の6.7%、海洋の4.2%をカバーしています。

では何がIBAを特別たらしめているのでしょうか?1つは、IBAが世界中のすべての国と生態系で同じ基準を用いて特定されていることです。そして、「生物多様性ホットスポット」などの景観スケールで定める方法とは異なり、IBAはある鳥の重要な生息地を守るのに必要な保全活動の範囲を正確に示しているのです。さらに、IBAをまもることは、多様な動植物、あるいは生物多様性全体を守ることにもつながります。

以下はIBAがいかに過去40年にわたり環境の保全に寄与したかを表した事例です。

 

1.風力発電施設が鳥にとってより安全なものに

写真提供: © zlikovec

再生可能のエネルギーは迫り来る気候の危機に対する完璧な解決策のように思えます。クリーンで、炭素排出が少なく、完全に持続可能です。うますぎる話のようにすら聞こえます。残念ながら、風力タービンの回転ブレードに衝突して命を落とす鳥にとっては、まさにそのとおりなのです。しかし、こうした鳥の死を防ぐ方法があるのです。「センシティビティ・マップ」は多数の鳥が集まる場所や重要な鳥の生息地および飛行ルートを示してくれるので、その中に発電施設を建設するのを回避することができます。ではこの地図の元になったものは何でしょうか?IBAです!

 

2.銀行の投資先の選定材料に

キムネコウヨウジャクの営巣コロニー
写真提供: © By Tahirs Photography

お金と道徳はいつも手と手を取り合う関係というわけではありません。けれども現在では、生物やその生息地の外にならないように環境に関する基準を利用して投資先を決定するする金融機関が増えています。特に欧州投資銀行(EIB)と欧州復興開発銀行(EBRD)はセーフガードとしてIBAを参考にしています。EIBはプロジェクトの提案でIBAへの負の影響の有無を述べよう求めています。一方EBRDはIBAを特に代替不能または脆弱な「優先的に保全すべき生物多様性」の一部として考えています。世界銀行や国際金融公庫も、生物多様性の劣化を招く可能性のある投資を選別するのにIBAのデータを利用しています。

 

3.何百もの保護区設立の火付け役に

オオヅル(絶滅危惧II類)で有名なLo Go Xa Mat国立公園(ベトナム)
写真提供: © Tucky Piyapong

誰もが国立公園や自然保護区などの保護区の重要性は誰もが認めるところです。しかし、保護区はどこに作ったらよいでしょうか?政府すら、あるサイトがいかに重要かを自覚していない場合があります。IBAはこのような状況を変えることを目指しており、そのとおり成功を収めてきました。例えばチュニジアでは、IBAの剪定作業がきっかけで政府が動き、これまで保全されていなかった地域に29の保護区が設立されました。ベトナムのLo Go Xa MatをIBAに指定した際には、地元の政府の関心を引きました。彼らはこれまでその地域の価値を知らず、湿地を干拓して農地に転換していたのです。その後開発は中止され、2002年7月には国立公園が設立されました。

 

4. 愛知目標の先導役に

キューバコビトドリ
写真提供: © Sergey Uryadnikov

2010年にCBD(生物多様性条約)は壊滅的な自然破壊を遅らせるための戦略計画を策定し、2020年までに達成すべき20の目標(愛知ターゲット)を示しました。その期限が迫っていますが、全ての目標が達成されるわけではないことは明らかです。けれどもIBAは、政府がいくつかの重要な目標を進めるのに役立てられました。愛知目標11は地球の表面の17%、「特に、生物多様性と生態系サービスに特別に重要な地域」を保全することと定められています。IBAは世界中の重要な地域を網羅していることから、この目標の進展度を追跡するのにも利用されています。IBAを保全することは絶滅を阻止し、絶滅危惧種の回復に関する目標12にも貢献することにつながります。

 

5.地球上のすべての生命を守る流れのきっかけに

IBAとKBAであるエチオピアのタナ湖
写真提供: © Aleksandra H. Kossowska

IBAの成功が明らかになってから、鳥以外の生物でも同様の取り組みが始まるまでに時間はかかりませんでした。そこで私たちは2016年にKBA(生物多様性重要地域)パートナーシップを創設しました。このパートナーシップは世界の主要な自然保護団体と資金提供者の連合体であり、鳥に限らず地球上のすべての生命にとって最も重要な場所を地図化し、モニターし、保全するという一つの目標に向かって活動しています。IBAは、仕組みとしてKBAのモデルとなっただけでなく、IBAで集められた多くの科学的データがKBAの選定基準の策定にも利用されました。IBAはすべて、KBAにも選定されています。

IBAが革新的な取り組みの触媒になっていたことがお分かりいただけたと思います。その影響は今後数十年にわたり続いていくでしょう。

 

報告者: Jessica Law

原文はこちら

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