なぜ世界の国々は愛知目標を達成していないのか?

陸地と淡水の環境の15%は保全されていますが、それで十分でしょうか?写真はオオサイチョウ 写真提供:© Bjorn Olesen

100万種の生物が絶滅の危機にあるというニュースをご覧になられたでしょう。なぜこのようなことになってしまったのか、また状況を好転させるために何ができるのでしょうか?幸いにも、この危機を伝えた報告書には、その解決策にも光を当てています。

5月の初め、100万種の生物が絶滅の危機にあるという見出しを飾ったショッキングな報告がなされました。国連の生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)が報じたこのニュースは、人間による自然破壊の悪事を証明する批判として示されました。しかし、どのようにしてこのような事態に至ったのでしょうか?また、この生物多様性の壊滅的損失を遅らせる、あるいは食い止める方法はあるのでしょうか?

これらの疑問に対する答えは、報告書の中にあります。第3章で2020年「愛知ターゲット」への進捗度を分析しており、各国は全体的にターゲットの達成に対してあまり進展を果たしていません。しかし、進捗のパーターンとその様々な理由を分析すれば私たちが何をすべきか、また将来的に変化を生むために何が必要かを知る助けになります。

「この報告書は政策決定者への警鐘です。私たちは地球上の生物多様性を守るための普遍的目標達成の軌道に乗っていません。」とこの報告書の第3章の共著者でバードライフのChief ScientistStuart Butchart博士は言いました。「種を救うことや生態系の復元など、個々の成功例が、私たちには生物多様性の危機を逆転する知識もツールもあることを示しています。しかしそれには変革と持続的な政治的誓約が必要なのです。」

愛知ターゲットの各項目は複数の要素(計54)で成り立っており、数値的指標、科学論文や他の資料のレビューおよび政府の報告書に基づいて、項目ごとの進捗度が評価されました。進捗度は良好、中程度、不十分あるいは不明に分類されました。心配なことにIPBESの報告では、4つの愛知ターゲットのうちの僅か5つの要素でしか良好な進展がなかったとしています。

自然の衰退と世界的目標 資料提供:© IPBES

 

自然の衰退と世界的目標。我々は軌道に乗っていない。

自然保護、気候変動の解決、持続可能性の達成はこれまでのビジネスのやり方では達成できない。環境破壊に対してチャンスをつかむとするなら社会の抜本的な変革が必要である。政府も企業もこれを十分には行っていない。

愛知生物多様性目標:

良好: 20の世界的目標中の4
中程度: 20の目標中の7
不十分: 20の目標中の6

持続可能な開発目標:

8/17 のSDGは貧困、飢餓、健康、水、都市、気候、海洋、陸地に関連する自然の衰退により蝕まれている。

(SDGs)

35/44  自然に関連するSDG目標の80%は進展が不十分又はマイナスの進捗。

パリ協定: 

現状の気候政策では、摂氏4度の温暖化が見込まれ、これは気候への壊滅的な影響を招く。

 

我々の公約、目標では、摂氏3度の温暖化が見込まれる。

 

パリ協定では温暖化を摂氏2度以下、出来るなら1.5℃に止める。

資料提供: IPBES

 

良好な進展がみられた1分野は、保護区の拡大で、現在陸地と淡水環境のほぼ15%、海洋環境の7%強がカバーされていて、各目標である17%と10%に近付いています。しかし、自然にとって最も重要な場所の多く、即ち、KBA(生物多様性重要地域、これまでのIBA(重要生息環境)を上回る概念)は依然として適切な保全を欠いています。さらに、多くの保護区で効果的な管理が行われておらず、事実上「紙の上の保護区」なのです。

もう一つのかなり進んだ目標要素は、特に島嶼における在来野生種を危うくする外来種の特定と優先対策です。これは現在行動に移されており、最優先地域の幾つかで上首尾に行われ、有害外来種の駆除につながっています。それでも外来種は増え続けており、その結果在来種の個体数は減り、外来種の影響を減らし、バイオセキュリティを強化するためにはより大きな努力が必要であることを示しています。

サンゴ礁や他の脆弱な生態系に対する気候変動の影響に取り組むターゲットは、最も進展がありませんでした。この例は愛知ターゲットへの進捗度を分析している時に論文著者たちが見つけたより広範囲な傾向を説明するのに役立ちます。各国において、生息地の破壊、持続不能な農業、漁業、林業などの生物多様性喪失を進める要因の追跡に関する進捗はほとんどありません。このために自然の状態は驚くべき速さで減少が続いており、それがIPBES報告書の結論を導いています。

そして、「これをどうすれば変えられるか?」が問題です。2020年に政府代表団は、私たちが確実に自然と調和して生きてゆくための新しいターゲットを定めるために再度集まります。この10年間に私たちが行ったことよりも良くするにはどうすれば良いか、また、次の10年でより持続可能な未来へ繋ぐにはどうすれば良いのでしょうか?

「愛知ターゲットのほとんどが達成できそうにない、という私たちの発見はほとんどの自然保護活動家にとって驚きではありません。しかし、過去10年で私たちが学んだことは、2020年以後の新しい生物多様性のための枠組み策定に役立つ情報になるはずです。」とButchart博士は言いました。

IPBES報告書は、二つの広範なメッセージを含んでいます。一つ目は、私たちが大変革を必要としていることです。野心的な新しいターゲットに触発された技術、経済、社会要因全体でのシステム全体を通した再編成です。二つ目は、これらのターゲットはより賢明なものでなければなりません。進捗度を初日から追跡できる指標を持った、より特化した、数値化可能な、測定が容易なものでなければならないのです

過去50年、人類の発展は環境を犠牲にして行われてきました。しかし、もうこれに倣わなくてよいのです。愛知ターゲットへの幾つかの進展は、自然保護は効果的であり、開発を犠牲にする必要がないことを示しています。例えば「コウノトリ米」が示したような持続可能な農業イニシアティブなどです。しかし、野心的な新しい生物多様性の枠組みは、より賢明なターゲットに支えられ、10年後には百万種の生物が絶滅の危惧に置かれていないことを確かなものにする必要があるのです。

報告者:Margaret Sessa-Hawkins

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