ビャウォビエジャ森の試行錯誤

By Gui Xi Young & Jarosław Krogulec

去る4月に私たちは「 失楽園:ビャウォヴィエジャの森の荒廃 」という記事の中で欧州最後の原生林への脅威となっている違法伐採について報告しました。あれから5ヶ月、ビャウォヴィエジャのための戦いは今も続いています。ある前線では抗議者が勇敢にも樹木とチェーンソーの間に身を投げ出し、別の前線では欧州委員会がポーランド政府を欧州裁判所に提訴しました。

ビャウォビエジャはポーランドとベラルーシの国境にまたがっており、それは人類の定住以前の大欧州平原を囲む広大な落葉樹の貴重な残存森林です。ここは最も良く保全された森林生態系で、また旧大陸で最後の原生林です。この地以外では稀になってしまった鳥がビャウォビエジャにはまだ数多くいます。ムシクイ類やウズラクイナは周りの牧草地を飛び回り、フクロウ、ヒタキ類、キツツキ類などの種が樹齢数百年のカシ、ライム、ニレの中で繁栄しています。

© Jarosław Krogulec

ここでは捕食動物とその獲物も自由に歩き回っています。オオヤマネコがマツテンやノウサギを探して森の中を忍び歩き、オオカミの群はアカシカやヘラジカを嗅ぎ分けます。森林に生息する最も象徴的な動物は巨大なヨーロッパバイソンで、森は彼らの避難場所も提供します。大陸最大の陸生動物である印象的なヨーロッパバイソンは20世紀初頭には狩猟により野生絶滅となりましたが、その後、数カ国で捕獲飼育されていたものが再導入されました。現在ビャウォビエジャの森は世界最大の1,400頭を超える個体群の住処になっています。

© Jarosław Krogulec

ところがパラダイスには問題が起きています。ポーランド側の森の3分の1が国立公園として公式に保全されているだけで、残りのエリアはEUナチュラ2000やユネスコ世界遺産など他の国際的な認定があるにも関わらず、商業的伐採が行われているのです。昨年来、3倍に増えた木材抽出の結果、何マイルにも続く伐採された森林となってしまいました。樹齢100年以上の巨大なカシの木が合板を作るために切り倒されているのです。

EU生息地指令第6条に対する直接的な違反であるこのチェーンソーによる虐殺はポーランド政治の最高レベルで認可されたものです。2016年3月、新環境大臣のJan Szyszkoは個人的に2013年の欧州委員会の合意に違反する伐採の増加を認めました。OTOP(ポーランドのパートナー)は6月までに公式の違反手続きを始めるために広範囲のNGO連合に加わり、欧州委員会に訴えるための行動を直ちに行いました。それでもポーランド当局は懲りませんでした。その結果、昨年末以来、森林の8万立方メートルに相当する5万本以上の木が切り倒されました。このかつては神秘的な広大な森が、今や自然災害を受けた場所のようです。

市民社会からの抗議の不協和音の中、EUは遂に決定的行動を取らざるを得ませんでした。7月13日、欧州委員会はポーランドを欧州裁判所(ECJ)に付し、判決が出る前に現地での作業を停止する禁止命令を要求しました。これは欧州委員会が保護区を守るための「暫定的措置」を適用した、過去25年のナチュラ2000ネットワークで4回目のことでした。EUの自然に関する評判が良い法律である「野鳥および生息地指令」は世界で最善の自然保護法であることに議論の余地はありませんが、不適切な施行と違反者への不十分なペナルティーにより、ブルガリア、キプロス、ギリシャ、イタリアなど多くのEU加盟国で現在も法的保護区の大規模な破壊が行われていることを意味します。それ故、ビャウォビエジャを守る欧州委員会の行動はその環境への取り組みのための信号を変えるスタンドになるのです。

勇気づけられるような勝利の瞬間がすぐにやって来ました。2週間のうちにECJ(欧州裁判所)はポーランドに対して裁判所が調査を行う間、暫定的に伐採を中止するよう命じました。けれどもそれは長くは続かず、Szyszko環境大臣は伐採の継続に関する声明を直ちに出したのです。ECJの禁止命令の「公衆の安全への脅威」をもたらす場合には伐採を認めるという条項を引用し、Szyszkoはポーランドの環境省はナチュラ2000サイトによりカバーされるエリア内での全ての森林管理活動は公衆の安全のために不可欠であり、それ故、裁判所の決定に合致していると理由づけたのです。

欧州の最高裁判所に対するこのようにあからさまな反抗は、EU加盟国による法の支配に対する前例のない拒絶です。EUとポーランドの政治的関係は、EU本部のあるブリュッセルとポーランドの首都ワルシャワの間で、移民問題やCO2排出から異論の多い司法改革まで幾つかの重要問題で対立しており、既に緊張関係にありました。9月にこの緊張はビャウォビエジャのための戦いが裁判所に持ち込まれたことから頂点に達しました。

グリーンピースEU
古代のビャウォビエジャの森で違法伐採された樹齢160年のトウヒの切り株を持って欧州裁判所で抗議を行うポーランドの活動家

有罪の証拠となる人工衛星画像で武装した委員会はポーランドに対して法律違反のかどで罰金を課す(金額は裁判所が定める)ことを求めました。これに対してSzyszko大臣は自らフィクションのための特別な才能を発揮し、彼が言う真犯人を詰めたガラスの瓶を作りました。中に入れたのはよく知られている「キクイムシ」でした。これらの甲虫は病気の木を狙い、蔓延すれば広範囲に亘る「死の森」を作り出します。彼は、ポーランド政府は森を破壊しようとしているのではなく、守ろうとしているのだと説明しました。「ポーランドは商業伐採を非難されていますが、それは誤解以外の何ものでもありません。」

“ポーランド政府は実に都合の良い身代わりを見つけたのです”

キクイムシがビャウォビエジャの脅威になりつつあることは確かです。けれどもポーランド政府はこれを自身の環境犯罪に対する実に都合の良い身代わりとして見つけたのです。キクイムシの大発生は、気候変動により頻度が増加してはいますが、自然の生態的現象です。森林監督官と自然保護活動家はこの問題の対処方法に完全に反対をしています。森林監督官にとっては、優先すべきは「平常の業務」へ戻ることです。即ち、影響を受けた木を伐採し、化学処理を施した健康な木の樹木帯で周りを囲み、植樹をすることです。これはただちに大発生を食い止めることが出来る一方で、2001年の大発生後にブルガリアのヴィトシャ山で見られたように、悪循環を断ち切ります。ヴィトシャ自然保護区は自然に回復するように残された一方、保護区の外は伐採と植樹を行い、ある程度の成功を収めました。皆伐は近くの木を自然の力に晒すことになり、嵐の被害があると元々は健康だった木がその後のより深刻な大発生に対して影響を受けやすくします。

© Obóz dla Puszczy

けれども死の後には誕生もあります。自然保護活動家は、自然がその真の力を示すことは許されるべきだと主張しています。チェコ共和国は1990年以降、何度か突発の被害を受けており、その中には2007年のハリケーンによるシュマヴァの森での大規模な蔓延も含まれています。ここでは積極的及び消極的な管理の両方の方法が異なるエリアで行われ、後者の環境的価値を支持する良い証拠がありました。枯れ木として残されると、灰色の「死の森」は鳥や虫や他の野生生物にとって健全な生息地として残ります。やがて緑の新芽が芽吹き、森林の自然の力が自分自身を再生し、将来の大発生に対してより抵抗力が備わるのです。

© Jarosław Krogulec

ビャウォビエジャの類稀な生態学的価値は本来、権利で非介入的なアプローチを決定する必要があります。何世紀にもわたりその独特の豊かさを確保してきたのは、特に他の欧州の森と比べて、ほとんど人の介入がなかった自然のプロセスでした。けれども利益の誘惑が不正を駆り立てました。伐採の増加の口実としての「オオカミが来た(この場合はキクイムシ)」は本の中の最古の悪ふざけの一つです。木こりはトウヒを狙うキクイムシの影響を受けていない巨大なカシの古木や他の様々な木を伐採しました。同様に、隣国のスロバキアではキクイムシの大発生と戦うことを想定した大規模な皆伐がこの10年にわたりスルヴァク山の森を荒廃させ、幾つかの場所でヨーロッパオオライチョウの絶滅につながりました。

© Jarosław Krogulec

法廷でのドラマが明らかになるに伴い、ビャウォビエジャで別の激しい膠着状態が起きています。数週間にわたり森の中でキャンプをする抗議者が森林の最終防御線として踏ん張っています。‘I ♥ Puszcza’ (‘I Forest’) というロゴを飾ったTシャツを着て、彼らは道路をブロックし、文字通り自分の体を木と伐採者と警官の間に投げ出して伐採を防いでいます。毎日彼らは嫌がらせや罰金、逮捕、更には暴力を前にして平然と監視し続けています。彼らの勇気は、古くからの表現である「オークの心を持つ」の真の意味である「勇敢さ」を思い出させます。バードライフは8月末に始まった市民運動プラットフォームWeMove.EUの「森林を守る」キャンペーンに堂々とその名を刻んでいます。

© Obóz dla Puszczy

ビャウォビエジャの運命はECJにより9月末あるいはそれ以後にも審議され続けるでしょう。陪審団の結論がまだ出ておらず、また、裁判所の禁止命令にポーランドが依然として従わない限り、バードライフは環境破壊の規模を反映し、不法伐採による潜在的利益を上回る罰金を要求し続けるつもりです。判決は、諺の通り、「犯罪は引き合わない」ことを示さねばなりません。世論という法廷は既に有罪判決を下しています。‘森を守ろう’という嘆願は急速に広がりオンライン署名が15万を超え(まだ続いています)、公共の関心の高さがいわゆる‘環境ニュース’の基準を超え国際的なメディア報道の程度を確保しています。

“ビャウォビエジャの森は私たちの時代の象徴になりました”

「高度に政治的な陰謀と現場における直接行動の激しさの間にあって、ビャウォビエジャの戦いは欧州大陸全土で強い感情を掻き立てたことは予想できました。ビャウォビエジャの悲劇は、自然の荒廃や思い出の破壊というだけではありません。それはこれらの価値が益々攻撃にさらされる時における、民主主義と法の支配に対する侮辱です。また、そうしているうちにも森は私たちの時代のメタファー(象徴)になりました。欧州共通の過去を喚起する、生きている象徴の最後の貴重な遺産を守るための戦いとして開始されたものが、欧州共通の未来のための希望を守る戦いになって行ったのです。」

報告者: Gui Xi Young & Jarosław Krogulec

 

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