ニュージーランドの「低湿地の渡り職人」を探索
ホークス・ベイ地方中央部の小さな湖での探索行の目的は、ニュージーランドに生息するほとんど知られていない種が絶滅してしまう前に発見することです。
最初のとどろきには驚かされました。ハチューマ湖のぬかるんだ北岸をカヤックで進んでいる時、乾燥したガマのピューピューという音、カヤックの船体を打つ水音、コクチョウの気味の悪い声が聞こえました。次にカヤックを漕ぐピッチがゆっくりだったのでヨシ原から反響する低い声がするのを確かに感じました。雄のオーストラリアサンカノゴイのしわがれ声でした。
私のボートの数メートル先で、サンカノゴイ学者のEmma Williams博士が自分のカヤックを音のする方に向けました。蛍光色の「保護活動犬」のコートを着た光沢のある黒いラブラドール犬が、船首で尾を振っていました。「キミ(犬の名)、良い子ね」ガマの群落につがいが隠れたので、ヨシを押し分けながら博士は言いました。
湿地の鳥の専門家Williams博士は、ニュージーランドにおけるオーストラリアサンカノゴイ(マオリ語でMatuku)調査の先頭に立っています。アオサギサイズのこの鳥は、その生息地であるガマが広がる湿地にそっくりな縞模様の羽毛を身にまとっています。
サンカノゴイは見つかると飛ぶのではなく、長く細い嘴を空に向け、カモフラージュのために風で葉が揺れるように体を揺らして「フリーズ(固まる)」します。サンカノゴイを見つけるのは諺のように「干し草の山から針を見つける」ようなもので、しかもその針の色も干し草色なのです。
ハチューマ湖でのWilliams博士の調査に同行したボランティアのチームは、この困難な調査への準備ができていました。私たちが行ったのは春の繁殖期でしたが、この時期は普段なら静かなサンカノゴイの雄が自分のテリトリーの中から発する低い声が聞こえるのです。この声は息を吸い込んだ後に、喉の近くにあるバグパイプのような管を収縮することにより作られます。これによりサンカノゴイの隠れ場所を知る手掛かりになるのです。
サンカノゴイの声に加えて、私たちには黒いラブラドール犬の「キミ」がいます。サンカノゴイを追跡するための訓練を受けたオーストラリアで初めての保護活動犬の「キミ」には、ガマでは隠すことができない香りを嗅ぐ鼻があります。Williams博士がヨシ原の中をカヤックで進むとき、「キミ」は不動の姿勢を取り、鳥の臭いを嗅ぎました。博士はカヤックを漕ぐのが無理になると、腿の深さまである水に飛び込み、「キミ」も続いてガマの林を進みます。私はボランティアの一人と一緒に飛び出てくる鳥に目を配るため、湖に漕ぎ出しました。我慢できなくなった雄のサンカノゴイが私たちの前に現れた時、私たちは興奮して無線機で博士を呼びました。「見つけたぞ!」
この調査行を通じてWilliams博士はマッセー大学への博士論文の一環として、雌とその巣の場所を特定するために雄のサンカノゴイのテリトリーを調べていました。博士の目的は、雌または雛を捕まえ通信機を装着することで、これによりこの不明な点が多い鳥のデータを集め、長い間の調査ギャップを埋めることでした。残念ながら雄のサンカノゴイは何度か声を聞き姿も見ましたが、今年は雌を見つけることはできませんでした。
サンカノゴイは調査が難しいことで悪名高い種で、データも不十分です。分かっているのは本種の生息地である湿地の90%が破壊され、引き続く生息地の喪失が今も最大の脅威であることです。オーストラリアサンカノゴイの推定個体数は、ニュージーランドで900羽、オーストラリアで1,000羽、ニューカレドニアでは50羽です。「サンカノゴイはニュージーランドでは絶滅危惧ⅠA類にランクされており、これはフクロオウムと同じ危惧度です。キウイとカカポ(ホオダレムクドリ)の方がもっと数多く生息しています。」とWilliams博士は言っています。
IUCNのレッドリストで絶滅危惧ⅠB類に評価されているオーストラリアサンカノゴイは、このカテゴリーに属する他の種のような注目を集めていません。Williams博士はその理由が本種の見つけにくいという性質によるものか、人間が余り重要視しない環境に多く存在することによるものか確かではありません。本種の国が定めた拠点のひとつ、ワイカトの有名なWhangamarino湿地でさえ定期的に洪水に見舞われ、また農業のために干拓され、テリトリーや巣が水没します。このような大規模な変化に直面してWilliams博士はこの個体群は数年内にいなくなることを心配しています。
「2010年にはWhangamarinoでは、普通に15分間に50回以上のサンカノゴイの声を聞いていました。そのころの最大の問題は、記録を取るのには声も鳥の数も多過ぎたことです。今では7,100ヘクタールの湿地全体で7羽を見つけることができれば、幸いな状態です。」と博士は言います。
博士は人々の認識の向上が、姿勢や考え方を変えられると信じています。彼女は引き続きマッセー大学、Ducks Unlimited(NGOの一つ)、自然保護局(DOC)のArawai Kākāriki 湿地の復元計画のコンサルタントとして活動しています。フォレスト&バード(ニュージーランドのパートナー)の地元支部などのパートナーの支援を得て、博士はサンカノゴイにキウイやホオダレムクドリと同様に人を惹きつける物語を付けてあげたいと思い知見を増やしています。
「サンカノゴイは稀な鳥ですが、近づきやすいので人々の心に訴えます。また町の近くの湿地で声を聞くことができ、農場でもたびたび姿が見られます。」と博士は言っています。
もっと近いこともあります。Williams博士はクライストチャーチ郊外のガレージに迷いこんだサンカノゴイの若鳥の話をするのが好きです。困惑した家主は、地元の獣医Jackie Stevensonのところへこの鳥を持ち込みました。「どうもキウイを捕まえてしまったようです。」と家主が言うとStevensonは「いいや、もっとすごいものだよ。」と答えました。
サンカノゴイは高品質で生態が多様で食物供給の豊かな環境に依存しているので、湿地の健全度の有力な指標になります。ヨーロッパ人がニュージーランドに入植したときサンカノゴイはたくさん生息していましたが、今では同時に2羽以上を見られることは稀です。本種はオーストラリアにもニューカレドニアにも生息していますが、個体群は劇減し、現在では世界的な絶滅危惧種に分類されています。
ニュージーランドでは、オーストラリアサンカノゴイは主に北島の湿地、ワイカト、北島の東海岸および南島の西海岸で見られます。彼らは主に夜間に魚、ウナギ、カエル、淡水性のザリガニ、水生昆虫などを食べます。彼らはマオリ族にとってとても重要で、伝説、物語、昔の絵、比喩などとして言語に現れ、多くの土地の名前にもなっています。彼らは重要な食料で、羽毛は儀式の飾りに利用されていました。
報告者: Lauren Buchholz