サプライチェーン向けウェビナーを開催しました

絶滅危惧種に指定されているワタリアホウドリ ©︎ Derren Fox

漁業者、サプライチェーン、消費者の連携による混獲問題の改善を目指して

2021年7月、「サステナブルシーフードと生態系への配慮」というテーマで、水産物を扱うサプライチェーン向けに2回のウェビナーを開催しました。

国内外でサステナブルシーフードへの関心が高まってきていますが、欧米諸国に比べ、日本では漁業による生態系への影響についての関心は未だに低いのが現状です。そんな中、海鳥やウミガメなど、海洋環境で生活する動物は様々な脅威にさらされています。数ある脅威の中で、漁獲対象ではない動物が誤って漁具に掛かってしまう「混獲」は、国内ではまだ比較的認知度が低い環境問題です。しかし、世界の海鳥約360種のうち100種が混獲によって悪影響を受けており、そのうち50種はIUCN(国際自然保護連盟)により絶滅危惧種に指定されています。漁法や海鳥の餌の取り方によって混獲のリスクが異なり、刺し網漁では年間推定40万羽、はえ縄漁では毎年少なくとも16万羽の海鳥が混獲によって命を落としています。

混獲問題の改善には、漁業者さんだけでなく、水産物を扱うサプライチェーンの方々、そしてそれを美味しくいただいている私達消費者の理解や協力が必要です。特にサプライチェーンは、水産業界と消費者への影響力があるため、漁業が海鳥に与える影響を知ってもらい、サプライチェーンの調達方針を混獲の削減に繋がるものにすることが海鳥の保護にとって重要なのです。そこで、今回は日本のサプライチェーンの企業の方々に海鳥の混獲に対する意識を高めてもらい、海洋生態系も含めた真のサステナブルシーフードの重要性を知ってもらうことを目的とし、ウェビナーを開催しました。

生涯の大半を海上で生活するワタリアホウドリ©︎ Alex Dodds

2回のウェビナーを通して、サステナブルな漁業を推進する専門家の方々に発表していただき、様々な取り組みの実態やそれぞれの観点からの意見交換を行いました。

皆さんは、持続可能な天然漁業で獲られた水産物であることを示すMSC「海のエコラベル」をご存じでしょうか?MSC (海洋管理協議会)による厳格な漁業認証規格を満たした水産物に付けられるエコラベルです。この漁業認証の原則3つのうち1つが「生態系に与える影響」で、絶滅危惧種などの保護種への影響も審査基準に含まれています。

1回目のウェビナーでは、その「MSC漁業認証」に焦点をあて、講演者の皆さんに発表していただきました。MSCからは認証規格の専門家、そして実際にMSC認証された漁業を行なっている漁業者さん、MSC認証取得に向けて漁業改善プロジェクトに取り組んでいる漁業関係者の方々からも、様々な観点からお話ししていただきました。

2回目のウェビナーでは、海外の大手スーパーによる取り組みや、国内外での最新の研究、そして大手水産会社を巻き込んだ国際的イニシアティブによる取り組みの発表がありました。混獲問題を含む生態系への影響に配慮した持続可能な漁業が世界的に広がり始めていることが、サプライチェーン企業の方々にも伝わったかと思います。

それぞれのウェビナーの最後には、登壇者らとのディスカッションを行い、生態系への配慮に向けたサプライチェーンと生産者の連携形成の必要性についての意見交換の機会にもなりました。

漁船から投棄された残渣に群がるマユグロアホウドリ© Clemens Naomab

当団体の海洋プログラムからは、いくつかの漁法における海鳥の混獲回避策についてご紹介しました。刺し網漁ではまだ効果的な混獲回避策が確立されていませんが、国内外で様々な研究が行われています。トロール漁では、海鳥を漁具に近寄らせないようにする「トリライン」が効果的で、実際に南アフリカのメルルーサ漁では混獲を99%削減したという成功例があります。はえ縄漁では、トリラインの他に、漁具におもりを付けて餌と針を早く沈ませる「加重枝縄」、夜間に漁具を仕掛ける「夜間投縄」という混獲回避策の組み合わせが効果的であることが、科学的に証明されています。はえ縄を使ったマグロ漁では、アホウドリ類の生息域で操業する全ての漁船が、こういった混獲回避措置を実施することが国際的規則で義務付けられていることもお話ししました。しかし、モニタリングの不足により、規則遵守の不徹底が大きな問題となっています。その遂行をサポートする目的で行う、電子モニタリングや漁業者さん向けの海鳥混獲削減トレーニングの提供などについてもご紹介しました。

また、当団体がSustainable Fisheries Partnerships (SFP)らと一緒に、サステナブルな漁業に向けた取り組みを進めるイギリスの大手スーパーマーケットASDAと共同で行っている「混獲の監査」についてもご紹介しました。この監査では、ASDAが扱う水産物の漁業に影響を受けている種の保全状況や、混獲の規模、入手可能な証拠などを調べました。それに基づき、重点的に取り組むべき「海鳥にとってハイリスクな漁業ワースト3」を特定しました。この監査を受けて、漁業に同行してモニタリングを行う科学オブザーバーの数を増やすことや、混獲回避策の強化など、必要な対策が明らかになりました。その後ASDAは、販売するすべての水産物の漁業に対して、混獲回避策の実施と監視員の配置などの改善を求めています。バードライフは引き続きSFPと協力し、先ずはイギリスとアメリカのスーパーでさらなる混獲監査を行う予定です。

ワタリアホウドリの親子。親鳥から餌をもらう際に、雛も釣り針を飲み込んでしまうリスクがあります ©︎ James Crymble

2回のウェビナーは、漁業による混獲の改善に向けた取り組みの状況やその必要性について、登壇者と参加者の皆さんと一緒に考える機会となりました。漁業関係者、サプライチェーン、消費者が連携して取り組む必要があることへの理解を深めることが今後も重要です。また、漁業とサプライチェーンにおける透明性を確立し、環境に配慮した漁業者の皆さんを消費者が応援できるシステムの構築が必要です。サプライチェーンにおける水産物の調達方針に「混獲の削減」が加わるよう、これからも当団体は企業の皆さんに働きかけていきます。今後は、消費者の皆さんにできることに焦点を当てた発信も行っていきたいと思います。

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