チャガシラコバシガンの著しい減少が明らかに
20世紀初頭、パタゴニアの砂漠は数万羽のチャガシラコバシガンで一杯でした。現在では彼らを見ることは稀です。しかしフォークランド諸島には今もまだ多数生息しており、がいつか大陸で復活するための鍵になるという人もいます。しかし、最近の研究で再放鳥は恐らく無理だろうということが明らかになりました。
パタゴニアというと、雄大な氷河と不毛の大地が心に浮かびます。けれども、世界で4番目に大きな砂漠であるにもかかわらず、パタゴニアのステップには非常に様々な地形があります。壮大な山脈から灌木帯、寒帯の森林から氷河湖まで、パタゴニアカイツブリ、ミナミクイナ、そしてチャガシラコバシガンなど多くの種の豊かな生息地があります。
春になると、渡り鳥のチャガシラコバシガンが南部パタゴニアにやってきます。草原の茎や葉を食べるこの鳥は、農地の近くへ来ることため、1930年代にはアルゼンチン政府が草原の資源をヒツジやウシなどと競合すると考え、問題となりました。そのため彼らは害鳥として迫害を受け、本土の個体数が急減しました。その間、フォークランド諸島に生息する非渡り性の個体群も同様に数を減らしましたが、大陸の渡り性個体群とは異なり、彼らは復活することが出来たのです。
集中的迫害により大陸の個体群が減少を続ける中、彼らの繁殖地で新しい問題が湧き上がりました。チリ政府が以前に移入したヨーロッパウサギの個体群を駆除しようとしてティエラ・デル・フエゴ諸島にチコハイイロギツネの導入を始めたのです。生息地の喪失と相まって本土のチャガシラコバシガンは失った生息地を復活させることが出来ませんでした。
アヴェス・アルヘンティナス(アルゼンチンのバードライフ・パートナー)の支援で行われた調査によれば、チャガシラコバシガンはパタゴニアの草原で最も多い雁ではなくなり、現在の個体数はおよそ800羽に過ぎません。20世紀初頭から90%減少したことになります。大陸の個体群は繁殖活動が大きく低下しており、その復活の前途は多難です。ティエラ・デル・フエゴ諸島のアルゼンチン側で2015年に初めて営巣の成功が記録されましたが、これは20年間も産卵の記録がなかった後のことでした。
より直接的な保護が必要
今回の研究では過去数十年に行われた保護活動の解析も行われています。論文の著者たちはアルゼンチンのレッドリストに本種が絶滅危惧ⅠA類に登録されて以降の成果を調べ、提案内容と実際に行われた活動を比較しました。
提案を受けて実際に行われた活動の多くは主として調査と教育に関連したもので、、鳥やその環境を直接保護する活動は行われていなかったことが判明しました。
「大陸の個体群の復活を確実にするために、繁殖の成功に役に立ち、これを増やす直接対策を直ちに実施する必要があります。」とアヴェス・アルヘンティナスのパタゴニア・プログラムのコーディネーターLali Fassolaは言いました。
島に生息する個体群は大陸の仲間を救うことが出来るか?
本土の個体群はフォークランド諸島に生息する数万羽のチャガシラコバシガンにより「救う」ことができると主張する科学者がいます。一方、別の研究は島の個体群を本土に移送しても大陸の個体群を復元できる可能性は低いとしています。
分子ツールを利用して研究したところ、更新世の後期(一般に‘氷河期’として知られる)のどこかの時点で、島と大陸のチャガシラコバシガンの個体群は遺伝的に分岐したことが明らかになりました。その結果、僅か450kmしか離れていないにもかかわらず、この数百万年に二つの個体群の間の交配は起きていないと思われます。
遺伝子の違いは専門家の野外観察の結果とも一致します。大陸個体群は渡り性であるのに対して、島の個体群は留鳥で、導入しても島から本土に渡りを行うことはなさそうです。別種を一緒にすることを考える前に、より説得力のあるデータが必要でしょう。
なお、アヴェス・アルヘンティナスはこれらの個体群が別種かどうかに関係なく、アルゼンチンでの大陸型チャガシラコバシガンの大規模な保全を推し進めています。
「政府は私たちが二つの個体群が遺伝子的に異なるものかどうかを討議している間に本土の個体群が居なくなってしまうのを放置するつもりでしょうか?」とFassolaは言います。
チャガシラコバシガンの事例は、地域レベルでの保全の状態は世界的な緊急度の状態とは異なるレベルにあることを示しています。世界的なレッドリストは種レベルでの絶滅リスクを示すものであり、保護活動の唯一の指標として用いてはならないことを再確認させてくれます。また分類学上の論争に関係なく、地域レベルでの保護活動における国および地域のレッドリストの価値を示すものです。大陸型のチャガシラコバシガンについて言えば、保護対策が素早く行われているとは言えません。
報告者: Irene Lorenzo
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