イヌワシの営巣の秘密が明らかに
人工衛星追跡調査によりメキシコの国鳥保護のための極めて重要な情報が明らかになりました。例えばソノラ地域では、採石場付近で新たに5ヶ所の繁殖場所が見つかりました。この威厳ある捕食者はアクセスが困難な場所を好んでいるようです。
夜中に注意深く歩みを進めます。太陽が昇るまでには数時間あり、暴風雨の恐れがあります。リュックがあまり大きな騒音にならないように気をつけて歩いている自然保護活動家のこわばった顔が稲妻の閃光で凍り付きます。彼の仲間がバランスを崩した時には、棘だらけのサボテンにぶつからないように赤い光を照らします。
彼らは特別な鳥のための特別のミッションでメキシコ北西部の人里離れたソノラ砂漠に居ます。「恐怖感がアドレナリンを奔出させます。ちょっとした間違いでもイヌワシは人に怪我をさせるかも知れないからです。」とプロナチューラ・ノロエステ(メキシコのバードライフ・パートナー)の野外技術者ハビエル・クルスは発信機をイヌワシに装着する時の様子について述べました。調査チームはプロナチューラ・ノロエステと世界的なセメント会社CEMEX社の共同プロジェクトの一環として、イヌワシの巣を見つけるために崖を登り、山地でキャンプをしているのです。
このプロジェクトは、生物多様性が豊かなソノラ砂漠深くに掘られたCEMEX社のセリト・ブランコ採石場の付近を中心に行われています。これは2012年に始まったパートナーシップの一貫であり、鳥類、哺乳類、植物、爬虫類、両生類に関する野外調査と、この地域での人の活動による起こりうる影響の査定が行われています。この脆弱性の高い地域の良好な管理を確実に実施するための‘生物多様性行動計画’の一環として、プロナチューラ・ノロエステとCEMEXはイヌワシの個体数と分布を調べ、ワークショップを開催しました。このプロジェクトで、重要な情報が明らかになったのです。それは、採石場周辺地域は言うまでもなく、イヌワシの個体群の分布や状態はメキシコ国内でほとんど分かっていないということでした。
世界的に見ればイヌワシの個体数の傾向は安定していますが、メキシコではかつての生息地の大部分で絶滅し、絶滅危惧種になっています。今回の調査で、過放牧がその要因の一つであることが分かりました。過放牧によってイヌワシやピューマなどの食物連鎖のトップに位置する肉食動物の獲物の数が抑制さていれる可能性が高いのです。
メキシコではイヌワシは保護の優先順位の高い種です。「イヌワシはメキシコの国鳥なのです。私たちはイヌワシを助けるための‘生物多様性行動計画’に参画していることに誇りを持っています。彼らを保護することは関心事なのです。」とCEMEX社の企業の社会的責任部門のMartha Laura Argüelles Corralは同社のヤキ工場にてコメントしています。
調査により主要採石作業場からあまり遠くない場所に少なくとも二つのイヌワシの巣があることが明らかになり、CEMEX社とのプロナチューラ・ノロエステの共同プロジェクトはさらなる巣の発見の期待が高まりました。調査チームはメキシコの環境局(CONANP)と共同で、イヌワシの分布と生息地の広がり具合をより良く知るために若鳥に発信機を装着しました。「特別な体験でした。今回の取り組みを通して、日々の移動や、どこで羽を休めるか、どこへ向かって飛ぶか、そして何よりもどこで寝るかまで、考えても居なかった多くの情報を得ることができたのです。」とハビエル・クルスは言いました。
発信機による追跡により、鳥の移動地図を作り、さらに、巣立ち後の分散の様子も地図化されつつあります。その結果から、プロナチューラ・ノロエステの野外技術者のフランセリア・トーレスは「イヌワシは、町の近くに分布しており、米国との国境を渡る個体もいます。今回最も驚いたことは、アクセスの困難な場所や人による攪乱がほとんど無い場所で頻繁にイヌワシが観測されたことです。」とコメントしています。
今回のプロジェクトによって、この地域がイヌワシを保護する上で非常に重要であり、彼らの暮らしについて理解を深めることができました。発信機装着から1年後の2016年には、ソノラで5箇所の新しい繁殖場所が確認されました。また地元のイヌワシ保護チームに研修会を実施することも出来ました。プロナチューラ・ノロエステのプロジェクト・コーディネーターのミゲル・クルスはイヌワシのさらなる発見の期待にワクワクしています。「調査チームは営巣するとは考えられていなかった地域で活動の強化を続けます。」
報告者: Shaun Hurrell
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