ベトナムのバットマン

野外活動を行っているVu Dinh Thong 写真提供: Vu Dinh Thong

今回は、コウモリの保護に魅了され、わずか5年でベトナムのコウモリ専門家の第一人者となったVu Dinh Thong Vu Dinh Thong氏へのインタビューです。

2001年、Vu Dinh Thongが主導するベトナムのバックマー国立公園でのコウモリ類の多様性と状況を調査するための研究プロジェクトにCLP(Conservation Leadership Program: 保護活動リーダーシップ・プログラム)が資金を提供しました。この時CLPから授与された賞が、彼の保護活動への潜在的な関心に火をつけました。その5年後、彼はカットバ生物圏保護区でのコウモリ保護活動に対し更なる支援を受けました。今日、彼はベトナムのコウモリ類とその保護について定評のある専門家の一人です。以下は彼へのインタビューです。

保護活動に興味を持つようになったのはどのような経過からですか?

初めて野生生物に注目するようになったのは1995年、国立ハノイ教育大学の後期の終わりに行われた野外活動のときです。正直なところ2001年にBP保護活動プログラム(現CLP)から表彰を受けるまでは、学術研究に集中していて、野生生物の保護にはほとんど興味はありませんでした。しかし、この時CLPから支援を受け、ロンドンで開催されたプロジェクト・リーダーの養成ワークショップに参加するため、渡英する機会を得たのです。

この時、コウモリ類の分類学と体系学を学ぶためにセブノークス(ロンドン南東の町)のハリソン研究所を訪れました。そこで学んだ結果、私はベトナムで最初のコウモリの専門家になり、自国のコウモリの多様性と状況についてより多くを知るようになりました。それ以来、コウモリの研究とその保護をずっと行っています。私の考えでは、CLPは私が今のキャリアを開始した陰の立役者であり、また私がベトナムにおけるコウモリの研究と保護を先導していくための大きな助けとなりました。

誰かお手本になるような方、または励ましてくれた方がいたのでしょうか?

大学生の頃の指導教授のTran Hong Viet先生は、ベトナムにはコウモリの専門家がいないことを教えてくださり、私や級友にコウモリの研究に焦点を当てるよう促してくれました。また、私の最初の上司であるCao Van Sung教授(小型哺乳動物の専門家)は、私の研究に対する能力と熱意を認めてくださいました。彼が、BP保護活動プログラムの助成金の申請を進めてくださいました。恥ずかしながら、それまで私はCLPのことを聞いたことがありませんでした。

なぜコウモリに特別な興味があるのですか?

私は、コウモリの多様性や、反響定位(エコーロケーション:コウモリ・イルカなどが超音波によって物体の存在を測定する能力)に興味を持っています。コウモリ類は分類も外的特徴も多様です。反響定位の能力は極めて優秀ですが、私の知る限りでは、このことについてほとんど分かっていません。また、ベトナムの他の野生動物同様、一部のコウモリ類は観光客による洞窟探検、密猟、生息地の喪失などの人間活動により大きな脅威にさらされています。

コウモリはかく乱に対してとても脆弱で、保護活動が計画通り実施されなければ、多くの種が絶滅するでしょう。私はコウモリが生態系において極めて重要で、人間による配慮が必要であることを理解するようになったのです。

CLPの支援のどの点が最も助けになりましたか?

CLPが私のコウモリ研究と保護プロジェクトに支援を提供してくれたからこそ、私の全キャリアが実際に始動したのです。私のCLP支援の二つのプロジェクトが博士課程の学生、科学者や一般市民の関心を大いに引き付け、私の経歴を高めるのに大きな機会を与えてくれました。2001年の最初のプロジェクト以後も私はCLPとのコンタクトを取り続け、他の同窓生たちとのEメール、Facebook、Roots Upや会議などで最新情報を得ています。

過去16年にわたるCLPの全チームはいつも親切で、思いやりがあり、親しく、喜んで助けてくれ、私に研究と保護の両方を行うよう励ましてくれています。本当にありがたいことです。

あなたの活動で最もやりがいがあったのは何ですか?

私の活動はベトナムにとっても、科学にとっても興味深い発見につながりました。また野生動物の研究と保護を行う私の同僚や、特に後継者や協力者の育成や助言する機会を得ました。また、2017年末修了予定のコウモリ研究を行う4人の修士課程の学生と3人の博士課程の学生の指導も行っています。

最もご自慢の業績は何ですか?

コウモリの新種の発見です。ベトナムでの生息が知られていなかったHipposideros khaokhouayensisおよび世界での新種Hipposideros griffini と新亜種Hipposideros alongensis sungiの記載です。私はベトナムで初めての反響定位のデータベースを作り、私の活動を通してコウモリの研究と保護についてベトナム科学界の関心を高めました。

2000年以前には、ベトナム人のコウモリの専門家はいませんでした。国際雑誌に掲載されるすべての資料は外国人が書いたものでした。今ではそのようなことはありません。私のCLPプロジェクトによる目に見える成果は、ベトナムにコウモリの研究を専門とする少なくとも3人の博士課程の学生がいることです。

ベトナムで保護活動の最大の課題は何ですか?

野生動物の密猟と生息地の喪失・かく乱などは、コウモリに限らず他の危惧される野生動物にとっても大問題です。

ベトナムで自然保護活動家が成功するための鍵は何ですか?

コミュニケーションの技能と科学研究の両方が必要です。コミュニケーションの上手な保護活動家もいますが、保護の必要性について関係官庁や社会を説得できるだけの研究の経歴を持っていません。その一方で研究は得意ですが、人の育成やコミュニケーションが不得手の人もいます。コミュニケーション能力と研究能力の両方が同程度に重要なのです。

あなたのキャリアの次の段階として何を計画していますか?

絶滅危惧種とその生息地を守るために研究、保護活動および育成を続けるつもりです。またコウモリの多様性と反響定位行動をもっと理解すること、科学および社会における保護への関心を高めること、コウモリ研究と哺乳動物全般の研究と保護の国内ネットワークの構築と強化などです。

最後に、ベトナムの次世代の自然保護活動家に対する助言をお願いします。

野生動物の研究と保護への真の情熱が必要です。初めは誰でも多少の困難はあるでしょうが、それは諦める理由にはなりません。簡単に成功することは出来ません。大いなる努力が必要です。

報告者: Vu Dinh Thong

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