カツオドリ 逃がした魚は大きい
「レンズを通して」婦人画報誌2026年8月号
写真・文=高円宮妃久子殿下
協力[画像編集]=藤原幸一(NATURE’S PLANET) 編集=桝田由紀(婦人画報)、バードライフ・インターナショナル東京
昨年の今ごろは、私を含めて大勢の方が万博会場に足を運び、大いに盛り上がっていたことを思い出しながら、一年の過ぎ行く速さに啞然とする今日この頃です。今回は「夏といえば海」ということで、海鳥の中からカツオドリの仲間をご覧に入れます。海域の異なるカツオドリをたくさん並べても図鑑のようになってしまいますので、今年5月に小笠原諸島で撮影した写真の中から選び、配置も少し遊んでみました。お楽しみいただければ幸いです。
まず、カツオドリという名前の由来ですが、実はカツオを食べるからではありません。そもそも、あの巨大なカツオを鳥が食べられるはずもなく、カツオドリは「カツオに追われて海面に逃げてくる魚」を狙って捕食します。つまり、「カツオドリが集まる=水中に魚を追うカツオがいる」と推測できることから、漁師たちが「魚群の居場所を教えてくれる鳥」という意味で命名したといわれています。
最初の写真は、カツオドリの「魚の捕獲失敗」のワンシーンです。勢いよくダイビングして、水中で魚を捕獲。水面に上がってきたものの、しばらく「くわえた、逃げた」を繰り返していました。イメージとしては、私たちがドジョウを手中に収めるのにひと苦労するような感覚でしょうか。。数枚後のカットでは、しばらく水中に頭だけを入れて逃した獲物を探しており、「諦めたくない」という気持ちがひしひしと伝わってきました。

カツオドリ 70cm カツオドリ科
インド洋から太平洋、大西洋の温帯・熱帯地区の島嶼で繁殖し、周辺海域で過ごす。わが国では伊豆諸島、小笠原諸島、硫黄諸島、トカラ列島、沖縄の粟国島や八重山諸島で夏鳥。
写真は、捕らえた魚を逃すまいと頑張っているところ。
© HIH Princess Takamado
上(web上では下)に並べた写真は、小笠原の海で見られるカツオドリの中から、4種類の飛翔シーンです。右(web上では上)から順に、シロガシラカツオドリ、カツオドリ、アカアシカツオドリ(褐色型)、そしてアカアシカツオドリ(白色型)です。

シロガシラカツオドリ 70cm カツオドリ科
カリフォルニア湾、メキシコ西部からチリに至る海岸の島嶼、ハワイ諸島などで繁殖する。日本では八重山諸島で繁殖記録がある。頭部から頸の灰色の範囲には個体差がある。
© HIH Princess Takamado

カツオドリ(写真右)詳細は1枚目の写真参照
アカアシカツオドリ -褐色個体-(写真左) 75cm カツオドリ科
白色個体ともに、インド洋、太平洋から大西洋の温帯・熱帯地区の島嶼で繁殖。非繁殖期は周辺の海域に生息。
© HIH Princess Takamado

アカアシカツオドリ -白色個体- 75cm カツオドリ科
褐色個体とともに日本では稀とされるが、小笠原諸島、南西諸島では以前に比べるとみられる。ほかのカツオドリ類より軽くしなやかな羽ばたきを交えて飛ぶ。
© HIH Princess Takamado
ご覧の通り、カツオドリの仲間はみな同じような体形をしていますが、それには彼らの捕食方法が深く関係しています。上空から魚を見つけると、時には時速100キロ近くの猛スピードでほぼ垂直に急降下し、海面に突入。水中でも巧みに泳いで魚を追います。空から直滑降する彼らの嘴・頭・首は円錐形となり、空気抵抗を最小限に抑える形状になります。そして、突入の瞬間には翼をたたみ、足を真後ろに伸ばして収め、入水の衝撃を均等に後ろへ逃がす「一本の矢」のような流線形を作り出すのです。また、顔や胸の皮膚の下には空気の層があり、エアバッグのように水の抵抗と衝撃を和らげているほか、非常に厚く頑丈な頭蓋骨が脳を守るヘルメットの役割を果たしているそうです。それでも、水面に突入する際に鳥同士の接触事故が起きたり、角度を間違えて失明したりする個体もいるといいます。
下の写真のテーマは「魚をめぐっての争奪戦」。ダツのような魚を捕らえた最初のカツオドリが必死に抵抗するなか、獲物を横取りしようとほかのカツオドリたちが次々と集まってきます。その様子が面白く、高速連写をした結果、なんと100枚近くも撮影してしまいました。静止画でありながら、パラパラ漫画、もしくはほぼ動画です。これなら最初から動画で撮っても良かったのかもしれません。なお、すべての写真を何度も見返しても争奪戦の最終結果を断言する自信はないのですが、最初のカツオドリがなんとか獲物を死守した可能性が高いように思っています。
今回、膨大な数の写真を整理しながら振り返ってみると、カツオドリだけでなくほかの海鳥も含め、捕食の「成功例」をあまり目にしていないことに気づきました。インターネット上にある動画などでは、カツオドリがイワシの大群を目がけて一斉に海面に突っ込むダイナミックな映像をよく見ますが、広大な海において、これほど幸運な魚の大群に遭遇することは、実は非常に稀なのではないかと考えさせられました。
大海原を悠然と飛ぶ海鳥たちですが、大自然の中で身ひとつで生きていくことがいかに過酷であるか。それを改めて痛感させられた、深い味わいの船旅となりました。







