なぁんだ、ヒヨドリか
「レンズを通して」婦人画報誌2026年4月号
写真・文=高円宮妃久子殿下
協力[画像編集]=藤原幸一(NATURE’S PLANET) 編集=桝田由紀(婦人画報)、バードライフ・インターナショナル東京
いよいよ寒さが和らぎ、春風が吹く季節となりました。ここ数年、温暖化の影響か、春と秋が少しずつ短くなっているように感じます。ともに美しい季節ですので、残念でなりません。今回は、春を感じていただける写真を選んでみました。主役はヒヨドリです。

ヒヨドリ 27.5cm ヒヨドリ科
嘴(くちばし)の黄色は花粉。冬から春にかけて、ヒヨドリと花は持ちつ持たれつの関係を築いている。餌の少ない冬、ヒヨドリは花の蜜を吸い、花はヒヨドリに花粉を付けて他の花への受粉を促す。
写真は、すべて赤坂御用地内で撮ったもの。
© HIH Princess Takamado
「ヒーヨ、ヒーヨ」と鳴くために、ヒヨドリと名付けられました。日本人にとって、スズメ、カラスに次いで馴染みのある鳥で、一見地味ですが、よく見ると魅力的なルックスの持ち主です。ただあまりに身近なため、鳥好きが揃う探鳥会でも「観るに値しない」と言わんばかりの「なぁんだ、ヒヨドリか」という声がしばしば聞かれます。ヒヨドリは独占欲が強く、椿や桜に来ているほかの鳥を追い払う姿が意地悪に見えたり、静寂を破るけたたましい声がうるさいと嫌がられたり、気の毒なくらい日本人に人気がありません。
しかし、面白いことに、日本を訪れる海外のバーダーには人気があります。その理由のひとつはヒヨドリの限られた分布です。日本を中心に東アジアにしか生息していないため、彼らにとっては日本でぜひ観たい鳥なのです。

ヒヨドリの分布は日本列島とその周りの朝鮮半島南部、サハリンなど。雪の多い北海道や東北に棲む個体は、秋に群を作り南の暖かい地域に渡り冬を過ごし、4月下旬から5月に北へ戻る。ヒヨドリは昼間に渡るので、全国でその様子を観察できる。
© HIH Princess Takamado
今は市街地で年間を通して普通に見られるヒヨドリですが、私が子どものころ、都心にある実家近くでは、緑が多かったにもかかわらずその大きな声を聞くことはありませんでした。実家の庭でその姿を見た記憶もありません。実は50〜60年前まで、ヒヨドリは標高400メートルから1000メートルの里山の森に棲み、冬になると平地に降りてくる鳥でした。その鳥が市街地に進出できたのは、都市の緑化と関係しているといわれています。

英名はBrown-eared bulbul。茶色い頰とボサボサ頭が特徴。写真では寝ているが、頭頂部から後頭部にかけて周囲より少し長めの羽が確認できる。これが冠羽で興奮時や警戒時などに立つ。
© HIH Princess Takamado
また、市街地への進出を支えていたのが、餌となるさまざまな食物です。ヒヨドリはもともと雑食なので、写真でご覧いただいている椿や桜のほか、梅やあんずなどの花の蜜、柳の花芽や新芽、昆虫類、南天やピラカンサスなど街路樹の実を食べます。さらに、折れた枝から出る樹液、少し郊外に出れば完熟した柿やみかん、ぶどうやりんごなどの果物、キャベツや白菜といった菜っ葉など、年中、餌には困りません。そして都市の公園や住宅地、人家の庭先などで繁殖しています。巣材には枝や植物の繊維のほか、ビニールやプラスチックなども使っており、人間の生活圏にあるものをうまく利用して、たくましく生きていることがわかります。
私が庭に出ると、ヒヨドリが警戒を促す大声で鳴き、ほかの鳥が水浴び用のバードバスからあわてて飛び立ちます。また、以前、冬場に餌台を出していた時がありましたが、その餌場に何もないと、ヒヨドリがサンルームの大きなガラス窓をパタパタと翼で叩きながら、下から上へ垂直に這うように飛ぶことが何度もありました。そこまでされると、さすがにこちらも気づきます。餌台に餌が補充されれば、ほかの鳥も餌にありつけます。鳥たちの小さな助け合いを目の当たりにしたような気がしました。
先ほど書きました通り、ヒヨドリは日本人にとって馴染み深い鳥で、日本国中に棲んでいます。ただ、北海道から九州、伊豆諸島に分布するヒヨドリ、そして小笠原や奄美、沖縄など島嶼部の留鳥は、現在8つの亜種に分かれており、独自の形態や色味を持っています。それらは大きく3つのグループに分けることができるらしく、将来、3つの種に分かれる可能性もあるのだそうです。現在、ヒヨドリは絶滅危惧種ではありませんが、3つの別種に分かれてしまったら、数が少ない島嶼部の集団は、絶滅危惧種に指定されるかもしれません。
日本を中心にしか分布していないヒヨドリです。これからは心して「なぁんだ、ヒヨドリか」などと言わず、ハンサムなその姿やアクロバット的な身のこなしを、温かく、見守っていきたいと思っています。



