三宅島で出会った鳥

アマサギ © HIH Princess Takamado

「レンズを通して」婦人画報誌2025年10月号

写真・文=高円宮妃久子殿下
協力[画像編集]=藤原幸一(NATURE’S PLANET) 編集=桝田由紀(婦人画報)、バードライフ・インターナショナル東京

 

今年、45年ぶりに三宅島に行ってきました。目的は三宅島に棲むアカコッコやオーストンヤマガラなど、ほかではなかなか見ることのできない鳥たちを撮影するためです。限られた時間ではありましたが、嬉しいことに多くの写真を撮ることができました。やっと整理が終わりましたので、今回は三宅島とそこで出会った鳥たちについて書かせていただきます。

最初の写真はアマサギです。川沿いの樹上に数羽いるのを移動中に見つけて、急いで下りて撮った写真です。大きなレンズを橋の欄干に載せて撮っていたのですが、飛び立ったあとは手持ちで頑張りました。婚姻色のオレンジ色が青空に映えて、とてもきれいでした。

アマサギ 50.5cm サギ科
分布は広く北米南部、南米、アフリカ、インド、東南アジア、オーストラリアなどで主に留鳥。
我が国では本州から九州に夏鳥。南西諸島では冬鳥。
嘴(くちばし)が短く、夏羽は頭部、首、背中がオレンジ色に。
© HIH Princess Takamado

 

このページ(web上では下の写真)はアカコッコの写真です。アカコッコは国の天然記念物に指定されているツグミの仲間で、本州でふつうに見られるアカハラをより赤くしたようなルックスです。落ち葉が溜まっている林道や森の地面、アシタバ畑などで採餌している姿をたびたび観察することができました。子育て中のアカコッコにとって三宅島は餌の豊富な棲み処なのでしょう。次から次へと虫やミミズを見つけ、数匹を同時にくわえて、ヒナの待つ巣にせっせと運んでいました。

アカコッコ 23cm ツグミ科
日本の固有種。鳥島をのぞく伊豆諸島とトカラ列島の照葉樹林などに留鳥として分布。冬は伊豆半島、房総半島などで見られることも。
三宅島ではイタチ導入により、4分の1の数に減少したが、今は少しずつ増えているらしい。
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左ページの右上(web上では下の写真)はイイジマムシクイ。ほかの鳥を探している時に、近くで「チュリチュリチュリ」というさえずりが聞こえ、姿を確認することができました。国の天然記念物に指定されています。この1回しか遭遇することはありませんでしたので、逆光の写真ではありますが、ご覧に入れます。

イイジマムシクイ 11.5cm ムシクイ科
伊豆諸島とトカラ列島に夏鳥として渡来。常緑広葉樹林で繁殖する。
渡りの時季には本州、九州や沖縄各地でも観察される。
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縦長の写真はオーストンヤマガラです。いつか会いたいと思っていた鳥ですので、念願かなってとてもうれしかったです。独立種ではなく、ヤマガラの一亜種です。本州の亜種ヤマガラより少し大きく、赤褐色の頰とがっちりとした脚が特徴です。イイジマムシクイの写真の下に亜種ヤマガラの写真も載せましたので、見比べていただければと思います。2000年の噴火前までは三宅島に生息する個体数は約5000羽と推定されていましたが、噴火後は約2000羽までに減ったといわれています。また、ここ20年ほど、冬の主な餌であるスダジイの実の不作が続いているため、個体数が減少。近い将来、野生における絶滅が心配されています。

オーストンヤマガラ 14cm シジュウカラ科
ヤマガラは国内では7亜種に分けられ、三宅島、御蔵島、八丈島に生息するのが本亜種。普通、島に生息する亜種は小型化するが、本亜種は本州の亜種ヤマガラより少し大きい。これは主食のドングリが伊豆諸島では大きいので体も大きく進化したとされる。
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ヤマガラ 14cm シジュウカラ科
こちらが本州で見られる亜種ヤマガラ。種としてのヤマガラは分布が狭く、韓国、南千島から沖縄本島まで日本全国の広葉樹林で普通に見られる。
© HIH Princess Takamado

 

左の写真(web上では下の写真)はスダジイの巨木「迷子椎」です。照葉樹林の奥深くに入り込んでもこのひときわ大きな木を目標にすれば助かる、ということが名前の由来だそうです。三宅島は、伊豆諸島の中で最も噴火の頻度が多い島であるのにもかかわらず、緑が豊かで、樹齢500年以上の巨樹が3000本以上もあります。これらの巨樹は噴火が起こるたびにそれを生き抜くだけの強い生命力を持っているということでしょうか。島民の方たちにとって、生活をずっと見守ってくれている神聖な存在ともいえるのかもしれません。

迷子椎
東京都指定天然記念物。看板に「古代人は噴火は神のなせる業であるととらえ、これを御神火とよび神として祀ったのである。この椎の大木は噴火を司る神が宿る神木であるといわれ、『やどり木』と名付けられ数百年の昔から大切にされ、みだりに近づくことさえも禁じられていた。」と記されている。
© HIH Princess Takamado

 

最後の写真はニホンイタチです。1970年、ネズミの捕食者として島に公式放獣されました。残念ながら、80年代にメスも放たれたため、数が増加。その結果、アカコッコが捕食され、著しく数が減ったといいます。

ニホンイタチ 頭胴長 オス27~40cm メス16~25cm イタチ科
本州、四国、九州に分布する日本の固有種。北海道には偶然に、伊豆諸島、沖縄などにネズミ駆除のため人為的に導入された。
動物食で昼夜活動、泳ぎもうまいことから生息する動物に強い影響を与えて問題となっている。
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三宅島では2000年に噴火があり、全島民が長期にわたって避難を余儀なくされました。ガスと酸性雨の影響で、島の森林は約60パーセント消失あるいは影響を受けたといわれており、大量の泥流によって吞み込まれた椎取神社や海岸に広がる溶岩など、噴火の爪痕は今も残されています。

伊豆諸島は、火山列島ですので、絶えず噴火の影響を受けています。噴火のたびに植生が後退し、動物も分布の縮小や絶滅に見舞われます。そしてその後には、長い時間をかけた植生の回復や新たな生き物の侵入などによる自然の回復が繰り返されます。その過程で島の生き物独特の進化と適応が起こります。

日本は多くの島から成り立っている国です。それぞれに違う進化があり、魅力があります。三宅島は再訪したいですし、ほかの島にも行って、その土地固有の鳥の写真を撮りたい。考えただけでわくわくします。

 

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