水面の秋
「レンズを通して」婦人画報誌2025年12月号
写真・文=高円宮妃久子殿下
協力[画像編集]=藤原幸一(NATURE’S PLANET) 編集=桝田由紀(婦人画報)、バードライフ・インターナショナル東京
日本の文化や習慣は四季と密接に結びついています。日本人の多くは日常生活の中に季節を取り込み、季節感のある生活を楽しみます。豊かな自然を有する日本に住んでいると、季節の移ろいに敏感になるのは当然なのかもしれません。鳥の撮影においても、できるかぎり季節感のある写真を撮ろうと努力してまいりました。秋が深まるとともに、北から日本列島に多くの種類のカモが訪れ、冬を過ごしますので、今回は水面に映る秋をテーマに、カモの写真をご覧に入れます。
「紅葉」と書いて「モミジ」とも読みますが、それだけモミジが日本の秋を象徴する存在だということではないでしょうか。最初の写真は、オシドリが真っ赤に紅葉したモミジの下で翼を広げているところです。池の縁から枝が低く水面上に張り出していたこと、また、私が少し高い位置から撮影していたことで、オシドリとモミジを同じ画面に収めることができました。

オシドリ 45cm カモ科
ロシア沿海州、中国東北部、朝鮮半島、台湾と日本で繁殖し、冬期、大陸のものは中国南部に渡る。
わが国では北海道から沖縄まで山間部の湖沼や渓流に生息する。北海道では夏鳥。
© HIH Princess Takamado
このページの上の写真(web上では下の写真)はアシの間を泳ぎ、陸に上がったヒドリガモです。12月半ばの午後の太陽はかなり低く、横から差し込む光があたりを照らしてくれました。枯れたアシの狐色が強調され、水面に映り、独特な雰囲気を醸し出しています。

ヒドリガモ 48.5cm カモ科
ユーラシア大陸北部で繁殖し、冬期はヨーロッパ南部、アフリカ北部、東南アジア、日本などに渡る。
日本には北海道から沖縄まで多数渡来し、市街地の公園の池でもよく見かける。
© HIH Princess Takamado
下の写真(web上では下の写真)は早朝のキンクロハジロです。露出を調整してアンダー気味に撮っています。これから本格的に明るくなる時間帯で、太陽が横から水面を照らしていました。水面は池の辺に生える木々の赤や緑、黄色の葉を映しており、鳥が少しだけ移動してもその周りの色が変わるので、いくつもの魅力的なシャッターチャンスに恵まれました。同心円状の波紋は、キンクロハジロの動きによって作られたものです。

キンクロハジロ 40cm カモ科
ユーラシア大陸北部で繁殖し、冬期はヨーロッパ南部、アフリカ北部、インド北部、中国南部に渡る。
日本には主に冬鳥として全国に多数渡来。北海道では少数が繁殖している。
© HIH Princess Takamado
最後の写真はマガモのオスです。進行方向は真っ赤に染まっていますが、後ろは濃い緑。緑の所を泳いでいる時に撮っていれば、初夏の写真に見えたかもしれません。マガモの頭の美しい緑色は構造色です。羽に光が当たると輝くこの現象は、モルフォチョウやアワビの貝殻、熱帯魚などにも見られる発色と同じで、物質の表面の微細な構造に当たった光の反射や屈折、散乱などによる物理現象です。
お天気のいい日のマガモの頭部は、角度によっては輝いて見え、角度によっては真っ黒に見えますし、逆に、お天気の悪い日には全体的に地味なルックスになってしまいます。構造色に限ってのことではありませんが、鳥の撮影には、光の有無や強度、方向などについて細心の注意を払う努力を怠らないことが大切です。

マガモ 59cm カモ科
ユーラシア大陸、北米大陸の寒帯から温帯に分布。冬期は南に渡るが、ヨーロッパでは留鳥。
日本では本州の山地と北海道で少数が繁殖するが、冬は北方から多数渡ってきて全国各地で見られる。
© HIH Princess Takamado
水面に映る紅葉は、カモに対して、実に美しい背景ですし、水は光を反射しますので、レフ板の役割を果たし、鳥を明るく照らしてくれます。ある意味、いい写真が撮れる要素はすべて揃っているともいえるかもしれません。唯一、問題として挙げられるのは、水面に浮かぶ落ち葉やゴミでしょうか。叶うなら、直前の強い風により水面がお掃除された(つまり、縁が吹き溜まりになっている)状態が理想的です。
古くより、日本人は四季に富んだ自然を愛でてきました。奈良時代から平安時代、貴族の間で始まったといわれる「紅葉狩り」は、秋に野山に出かけ、美しく色づいた紅葉を観賞する風習です。江戸時代になると庶民の間にも広がりました。モミジの紅葉やイチョウの黄葉、そしてその間のさまざまな色合いのオレンジが織りなす秋の絶景、これを愛でたいと紅葉の名所に赴く方は、今でも多くいらっしゃるのではないでしょうか。
最近は確実に紅葉の時季が遅くなっています。私が子どものころは11月の初めでしたが、今は12月の第1週から第2週あたりになりました。地球温暖化に伴い、夏と冬の二極化が進んでいるともいわれているようです。撮影していて、私自身も、日本の四季は姿を変えつつあるように感じます。
閑話休題、これからも鳥を主役に据えながら、日本の四季の美しさをカメラで捉え、写真として残していきたいと思っています。水面に映しだされた秋、お楽しみいただけましたでしょうか。皆さま方には、近くの公園にでもお出かけいただき、ぜひ、日本の秋をご満喫くださいませ。

