雪の中の鳥たち

マガモ © HIH Princess Takamado

「レンズを通して」婦人画報誌2025年2月号

写真・文=高円宮妃久子殿下
協力[画像編集]=藤原幸一(NATURE’S PLANET) 編集=桝田由紀(婦人画報)、バードライフ・インターナショナル東京

 

季節に合う写真選びを心掛けているのですが、時折、難しいと感じることがあります。私たちが西洋暦の中で実感する季節は、旧暦に基づいて覚えた「四季」とは異なりますし、地球温暖化によってそのズレは以前より大きくなっています。ゆえにこの連載でご紹介するタイミングが難しいテーマがあり、そのひとつが「雪に鳥」です。近年の紅葉の時季である12月、そして旧暦の春である1月から3月の期はいずれも季節外れに感じてしまうため、何年も出番のない写真たちが少し不憫に思えました。そこで、今回は思い切って、雪の中で頑張っている鳥の写真をご覧にいれることにいたします。

最初の写真は、雪が降りしきる中、寒さに耐えるカモたちです。撮影を開始した時には気温が低く、曇りの状態。河口には異なる種類のカモが多くいました。面白かったのが、ある程度の雪までは「全く意に介さない」というふうに採餌を続けていたカモたちが、その後に雪が激しく降りだすと、まるで申し合わせたように一斉に内陸に向かって移動開始したことです。岸壁沿いに覗いてみると、岩陰や岸辺に避難しているようでした。

マガモ 59cm カモ科
ユーラシア大陸の寒帯や亜寒帯、北米大陸の大部分に分布し、北部に生息するものは冬季に南に渡る。
我が国では北海道で留鳥として繁殖。本州以南でも山地などで繁殖する個体もいるが、多くは冬鳥。
上の写真の岩陰のマガモは、羽毛を膨らませ、体温を奪われないようにして、天候が回復するまでじっとしていた。
© HIH Princess Takamado

 

悪天候をあえて狙って撮影に出ることはないので、逆に貴重なチャンスです。被写体のカモが何種類もいたので、かなり長時間にわたって撮影を続けました。おかげで「カモのくちばしは形状的に雪が積もりやすい」というちょっと笑ってしまう発見もありました。カモたちにとっては迷惑な積雪なのでしょうが、その姿はとても可愛かったです。

次の写真はアトリの群です。雪が降りやむと鳥たちは活動を始めます。この小さな群は狭い範囲を定期的に回っていたようで、1時間に一回くらいの間隔でどこからとなく一斉に現れ、しばらくすると一斉に飛び去っていきました。雪の積もった森の中、アトリが飛び立つ羽音とその余韻、そして最後のシーンとした静けさは印象的でした。

アトリ 16cm アトリ科
ユーラシア大陸のスカンジナビア半島からカムチャツカ半島までユーラシア大陸の寒帯で繁殖、冬季にはヨーロッパ、朝鮮半島などに南下する。
我が国では時に大きな群で全国を渡来する冬鳥。
© HIH Princess Takamado

 

最後のページ(web上では下の写真)には、アカゲラ、2羽のシジュウカラ、そしてヤマガラの写真を配置しています。すべて北海道で撮った写真です。飛翔シーンはどのカメラマンも欲しがるカットですが、アカゲラは黒白、赤とはっきりした色合いなので、ピントが合いやすいように思います。

アカゲラ 23.5cm キツツキ科
アカゲラはユーラシア大陸中部のヨーロッパからロシア沿海州や中国までの留鳥。
我が国では北海道、本州で留鳥。写真は北海道に生息する亜種エゾアカゲラのメス。
アカゲラのオスは頭部が赤い。
© HIH Princess Takamado

 

また、シジュウカラも動きのある、嬉しいシャッターチャンスでした。餌の少ない冬場、採餌していたところにほかのシジュウカラが飛来したので、先にいた個体が後から来た方を威嚇して、追い払っているところです。

シジュウカラ 14.5cm シジュウカラ科
ユーラシア大陸の中南部のアフガニスタンから中国まで分布。
我が国では小笠原諸島以外の全国で普通の留鳥。
頰が白いのでホオジロと間違えられることもある。
© HIH Princess Takamado

 

そして最後の写真は、ふっくらと丸くなっているヤマガラです。隣に積もっている雪も似た形状で、いい雰囲気を醸し出しています。どうしても丸い可愛いさに目が行きがちですが、この「ふっくら」は命を守る防寒対策。冬に向けて脂肪を蓄え、寒い時には羽毛を膨らませて、その間に空気をため、体温を奪われないようにしているのです。何枚もの重ね着の上にダウンコートを着込んで撮影に臨み、終われば暖かい部屋に戻る私とは違って、鳥たちはまさに身ひとつで、効率よく冬を越していく「小さな強者たち」です。

ヤマガラ 14cm シジュウカラ科
分布は狭く、朝鮮半島、台湾と日本で留鳥。
我が国では北海道から沖縄島まで普通に見られる。人に慣れやすい性格。
© HIH Princess Takamado

 

気候変動により環境が変わっていく中、人間は室温と衣服を調整すればいいのですが、鳥を含むほかの種は、身体を適応させていきます。2024年は季節外れに咲く花や羽化する虫を多く見ました。毎年、観察している鳥たちの数が少なくなっているようにも感じます。

日本に渡ってこなくてもいい。でも必ず、どこかで生き延びて欲しいと願う今日このごろです。

 

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