ふっくらスズメ
「レンズを通して」婦人画報誌2021年2月号
写真・文=高円宮妃久子殿下
スズメは日本人にとって身近な鳥で、稲作を始めて以来、深い関わりを持って今日に至っています。警戒心が強いため、意外とよい写真を撮りにくく、今回の写真はいずれも小型のテントか小屋の中に身を隠して撮影したものです。地味な色目ではありますが、少しふっくらとした冬のスズメの写真をご紹介いたします。
スズメは可愛く、馴染み深い鳥ですが、お米を食べる害鳥として嫌われていることもあり、人との利害対立はいまなお続いています。ただ、スズメは雑食であり、お米のみならず害虫をも食べてくれるので、実は益鳥でもあるのです。1958年、中国では毛沢東が進めた「大躍進政策」の中で、伝染病を媒介するハエやカ、ネズミ、そして穀物をついばむスズメを「四害」と指定し、徹底的に駆除する政策が取られました。全人民がスズメ退治に動員され、鍋やフライパン、シンバルなどをたたいて追い回し、疲れ果てて地面に落ちたところを捕まえました。そのようにして駆除されたスズメは、数億羽にものぼったといわれています。しかし、イナゴを食べるスズメの激減がイナゴの大発生を招いて、お米がとれなくなり、結果的に数千万人もの飢餓者が出る事態となってしまいました。このスズメの駆除に関しては、ユン・チアン著『ワイルド・スワン』(土屋京子訳 講談社+α文庫)の中でも、筆者の幼少時代の思い出として書かれています。なお、面目を取り戻したスズメは、四害から外され、その代わりにナンキンムシが四害に加えられたそうです。
このように害鳥と思われることもあり、人間の近くにいながら、常に一定の距離を保ち、慣れることが無い点もスズメの特徴です。庭に設置した餌台にやってくるのもほかの鳥よりあとで、警戒しながら、せわしない食べ方をします。また餌を庭に撒いて、家の中から観察していると、まず一羽が偵察に現れ、その後に群が次から次へと舞い降り、私がちょっとでも動こうものなら、驚くほどの羽音をたてて、一斉にいなくなるのです。スズメは、市街地や住宅地、集落周辺などを棲息場所としていますが、そのためには警戒心は欠かせないのかもしれません。巣を建物に造り、人間の生活をうまく利用しながら繁栄してきた鳥ともいえます。
俳句の季語にもなっており、「スズメの子」は春、「稲雀」は秋、そして「ふくら雀」は冬を表すほど、年中、身近に見る鳥です。冬の寒い日には、最初の写真のように羽毛を膨らませ、中に空気の層を作って熱を逃がさないようにするので、その結果、丸く、そして「ふっくら」とした姿になります。それを「福」との語呂合わせで「福良雀」「福来雀」などと書き、富と繁栄を象徴する縁起のよい鳥となりました。
新型コロナウイルス感染症の拡大で日本経済にも影響が出ているようですので、「福良雀」に更なる繁栄の一翼を担ってもらいたいものです。
(注)掲載にあたり一部編集しました