ピラカンサを利用する鳥たち

カワセミ © HIH Princess Takamado

「レンズを通して」婦人画報誌2024年12月号

写真・文=高円宮妃久子殿下
協力[画像編集]=藤原幸一(NATURE’S PLANET) 編集=桝田由紀(婦人画報)、バードライフ・インターナショナル東京

 

冬に向けて庭の色合いが寂しくなっていく中、彩りを与えてくれるのがピラカンサの色鮮やかな実です。クリスマス飾りとしてセイヨウヒイラギと鳥のモチーフをよく見るようになる季節ですので、この機会にピラカンサの赤い実と鳥たちの写真をご覧に入れたいと思います。

最初の写真はカワセミです。捕らえた魚を飲み込み、消化できなかった骨を吐き出そうとしているところです。大きく口を開けているこの写真以外は、ただひたすらじっとしており、生きているのかしら、と問いたくなるくらい、動きませんでした。カワセミは、実を食べるためではなく、池の魚を狙うのにちょうどいい止まり木として、ピラカンサを利用していたのです。この年のピラカンサは大豊作で、時折、色鮮やかなカワセミでさえ、その居場所を見失ってしまうほどでした。もし、池の魚からも見えづらいのであれば、カワセミにとっては好都合。カモフラージュのために、たわわに実ったピラカンサを止まり木に決めたのかもしれません。

カワセミ 17cm カワセミ科
分布はヨーロッパ中南部からユーラシア大陸中南部のヒマラヤ地区を除いて日本まで。
北部のものは冬期、アフリカ北部、インドネシアなどに渡る。
日本では全国の水辺で留鳥だが北海道では夏鳥。
© HIH Princess Takamado

 

ツグミ 24cm ツグミ科
北シベリアからカムチャツカ半島までで繁殖し、冬期は朝鮮半島、日本、台湾、中国南部で過ごす。
日本では全国的に普通の冬鳥。
秋に山地の森林に群れで渡来し、春にかけ次第に畑、河原など開けた場所に移る。
© HIH Princess Takamado

 

上記二枚の写真はともに木の実を食する鳥たちです。ひとつ上の写真はツグミで、ピラカンサの実をくわえています。秋にシベリア方面から長距離を渡ってくるツグミたちの目的は、暖かい日本各地で豊富に得られる実や果実です。春になると虫も食べます。

そして下の写真はヒヨドリです。冬はピラカンサなど木の実を主に食べます。果実や花の蜜など甘いものが好物のようですが、豪快に花を丸ごと食すところや、新芽や葉、昆虫を食べているところもよく見ます。日本人にとって身近な鳥ですが、海外のバーダーにとってはとても珍しく、人気の鳥です。

ヒヨドリ 27.5cm ヒヨドリ科
日本列島を中心に、サハリン、朝鮮半島、台湾、フィリピンなど限られた地域に分布。
日本ではごく普通に見られるが、周辺の国では数が少なく、
冬期に北部のものは南に移動し越冬する。
© HIH Princess Takamado

 

最後の写真はゴイサギです。見つけた時には、本当に驚きました。夜行性ですので、公園の開園前に、手ごろな木に落ち着いて眠りについたのでしょう。多くの人が通る橋の横で、バーダー以外には気づかれることなく、くちばしを翼の下に入れて熟睡していました。写真は、走りすぎていく幼稚園児たちの大きな声に驚き、目を見開いた時に撮ったものです。

ゴイサギ 57.5cm サギ科
世界に広く分布し、ユーラシア大陸南部、サハラ砂漠を除くアフリカ、カナダ南部から南米まで見られる。
日本では全国の水辺で繁殖するが、北海道では夏鳥、沖縄では主に冬鳥となる。
水辺の林で集団繁殖し、塒(ねぐら)を取る。
© HIH Princess Takamado

 

ピラカンサは明治の中ごろに日本に導入された植物です。赤い実を付ける種類は南ヨーロッパ、アジア西部原産で、日本名は葉が常に緑であることから「トキワサンザシ」、オレンジ色の実を付ける種類は中国西南部原産で、日本名は「タチバナモドキ」です。常緑であること、そして棘がとても多いことから防犯効果を期待して、生け垣として植えられた、ともいわれています。

晩秋から冬にかけて果実や木の実が熟すと、鳥がそこに集まります。この季節に野山で見かける木の実のほとんどは赤色であり、公園のピラカンサやサンゴジュ、街路樹のハナミズキやナナカマドなども1センチくらいの小さな赤い実を付けます。植物の側からすれば、その実を目立たせることで多数の鳥についばまれ、種子散布に貢献してもらう戦略。それと同時に、鳥たちにとっては冬を越すための栄養源になります。

植物と鳥の共存共生する姿を見ると、その合理性に納得しつつ、ある種の感動を覚えます。望遠レンズを通して鳥を観察していると、ついその世界に引き込まれてしまい、気が付けば、私もその世界の一部になっていることもあります。夢のようなひと時を過ごせるのは幸せなこと。今後もレンズを通して見た世界を皆様にお伝えすることができれば、嬉しい限りです。

 

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