2021年版レッドリスト:象徴的な鳥類の減少への不安
アジアの森林に生息する大型の鳥類は狩猟と生息地の減少の影響を、また気候変動の最前線にいる種は暑さによる影響を受けています。その一方で、2021年のレッドリスト更新では、改善も見られ、進むべき道が示されました。
ついにその時がやって来ました。メスのセレベスツカツクリ(Maleo)はパートナーを連れ、何世代にもわたって使用してきた砂の土手を探しに行くために、スラウェシ島の熱帯雨林を離れます。二羽は一緒に深い穴を掘り、そこにメスが鶏卵の5倍の大きさの卵を1つだけ産みつけます。その上に塚を築き、カモフラージュのために小枝や葉を加え、そして、それを放棄します。
親鳥の仕事は終わっても、ヒナの仕事は始まったばかりです。太陽の光や、時には地殻内の火山熱によって孵化し、やがて完全な成鳥のミニチュアが産まれます。空気を吸うために何とか殻を破り、翼をバタバタはためかせて下草の中に飛び込み、覚悟を持ってその日から自力で生きていきます。まるで不死鳥のように。
これは人生のスタートとしては過酷に聞こえるかもしれませんが、何千年も前から完璧に機能してきたシステムなのです。そのバランスを崩したのは、現代に生きる私たち人間なのです。数十年にわたる減少の後、2021年、セレベスツカツクリ(Maleo)はEndangered(危機)からCritically Endangered(深刻な危機)に危機度のカテゴリーが上げられました。これは主に、地元の珍味とされる卵の無秩序な採取が原因です。さらに、ふっくらとしたニワトリのような成鳥は、しばしば食用として狩猟されます。
さらに、この問題に拍車をかけているのが、彼らの生息地である森林の急速な破壊です。2000年以降、スラウェシ島の13%以上の森林が伐採され、そのスピードは加速する一方です。その結果、何世紀も前からある歴史的な営巣地が放棄され、この魅力的な鳥の将来が危ぶまれているのです。
最新のレッドリスト更新で乱獲の犠牲になったのはセレベスツカツクリ(Maleo)だけではありません。長く伸びた尾を持つ壮観なキジ、ベトナムカンムリセイラン(Vietnamese Crested Argus)が、2020年にカンムリセイラン(Crested Argus)とは別種と確認され、そのまま Critically Endangered (深刻な危機)のカテゴリーに分類されました。 ここ数十年の間に、同種が生息する緑豊かな山林で「産業レベル」の密猟が行われるようになったことが、その減少の原因として心配されています。研究者は、過去30年間で生息数が90%減少したと推定しており、森林伐採によってハンターがこの種にアクセスしやすくなったのだろうとしています。
林冠に生息する鳥類も無関係ではありません。かつて東南アジアやニューギニアの熱帯地域に広く生息していたミカドバト(Green Imperial-pigeon)は、森林破壊に加え、持続可能でない狩猟によっていくつかの国で減少し、現在ではNear Threatened(準絶滅危惧)に指定されています。しかし、このような脅威が蔓延する中で、私たちはどのように対処すればよいのでしょうか。
「COVID-19の大流行が始まって以来、コミュニティの生計が制限されたため、鳥の捕獲が悪化したことを示唆する証拠がいくつかあります。現在の状況下で持続可能な地域社会の生計を発展させることは、私たちが直面している大きな課題です」とバードライフ・インターナショナルアジア事務所のPreventing Extinctions CoordinatorであるAnuj Jainは話します。
インド西部と中央部の低地草原に生息し、独特のねじれた口髭を持つ小さな野鳥であるインドショウノガン(Lesser Florican) も、2021年により高い脅威のカテゴリーに移されたアジアの鳥類の一種です。心配なことに、この鳥は生息地の草原が広範囲にわたって破壊されているため、Endangered(危機)から Critically Endangered(深刻な危機)に危機度のカテゴリーを「格上げ」されました。自然の草原は広範囲にわたって農地に転用され、残された草原は過放牧、外来植物、気候変動による降雨パターンの乱れによって劣化しています。さらに、野良犬や狩猟、採卵などの脅威が加わり、これらの危険は増しています。研究者はまた道路や電線などのインフラへの衝突も致死率を顕著に上げているようだと推測しています。
ボンベイ自然史協会(BNHS、インドにおけるバードライフのパートナー)とその他の地元保護団体は、同種が生存する最後の地域、ラジャスタン州アジメール周辺の農民と協力して、インドショウノガン(Lesser Florican) に対する認識を高め、保護を啓発するための活動を行ってきました。アジメールの風景は今や一面耕作地になっており、同種にとって最適な場所ではありません。BNHSのプロジェクトでは、かつて草原だった地帯の侵略的な草木を取り除き、低密度な有機農業のために地域保全保護区を設立することに成功しました。
IUCN Bustard Specialist Groupのco-chair を務めるバードライフのNigel Collarは、「インドにおけるあらゆる鳥類保護の危機の中で、これは最も緊急でありながら最も無視されている危機です。この驚くべき種を救うにはあと数年しかありません。BNHSはその勇敢な努力を拡大するために、あらゆる支援を必要としています」と述べました。
2021年のレッドリスト更新で気候変動の影響を受けた種は、他にもあります。最近の報告によると、暑さを好むセレベスツカツクリ(Maleo)も、気温と海水面の上昇により営巣率が低下することが予測されています。さらに、キューバにのみ生息するキツツキ科のキューバ ハシボソ キツツキ(Fernandina’s Flicker)が、気候変動の直接的な結果として、Vulnerable(危急)からEndangered(危機) に移行しました。同種は、古いヤシの木の空洞に巣を作ることを好みますが、頻発するハリケーンによって、かつてない速さでヤシの木は破壊され、また新しいヤシの木が成長しても樹齢を重ねる時間がありません。
また、アフリカ東南部に生息するアフリカ オタテガモ(Maccoa Duck)も Vulnerable(危急)からEndangered(危機)へ危機度のカテゴリーを上げた種です。これは、汚染、漁網による混獲、農業による湿地への排水が原因です。
しかし、すべてが失われたわけではありません。最近の成功は、保全活動によって達成できた素晴らしい成果を示しています。2021年、コロンビアのアンデス山脈中央部にある雲霧林を主な生息地とするアイバネインコ(Indigo-winged Parrot) が、保護活動の甲斐ありCritically Endangered(深刻な危機)から外されました。保全団体ProAvesは、鉱業、伐採、牧畜といった地域の脅威から守るための保護区を作りました。人工巣箱の設置により、同種の個体数は10年以上に渡ってゆっくりと回復しています。現在もEndangered(危機)に指定されていますが、その将来ははるかに明るいといえます。
同様に、ハワイガン(Hawaiian Goose)も、飼育下繁殖と野生復帰計画が大成功を収め、Vulnerable(危急)からNear Threatened(準絶滅危惧)へと脅威のレベルを下げることができました。捕食動物の駆除と生息地の回復を経て、復帰された個体群はまさに「野生」となり、自立しています。これは、チャンスさえあれば、絶滅寸前の種が灰の中から立ち上がることが可能であることを示しています。
報告者:Jessica Law
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