雪の妖精

シマエナガ © HIH Princess Takamado

「レンズを通して」婦人画報誌2023年2月号

写真・文=高円宮妃久子殿下
協力[画像編集]=藤原幸一(NATURE’S PLANET)

ここ数年、「可愛い」と大人気のシマエナガ。鳥好きのみならず、一般の方の間でも話題になっています。より可愛い写真を、と時間をかけているうちにタイミングを逸してしまいそうなので、今回、思い切って、シマエナガの写真をご紹介させていただくことにいたしました。

 

亜種とは、同じ種に属しながら、体の色や大きさ、模様の差異が明確なもののことである。
本州に生息する亜種エナガ、キュウシュウエナガ(九州や四国)、
チョウセンエナガ(対馬など)の3亜種は、いずれも黒く太い眉斑がある。
写真提供:© HIH Princess Takamado

私が最初にシマエナガと出会ったのは北海道弟子屈町。平成30年2月1日の事です。気合を入れて撮影している間は大丈夫でしたが、じっと立って鳥を待っていると寒さが身に沁みました。また気温がマイナスの所に、油圧式の雲台をつけた三脚を持参するという失態を冒したことも忘れられません。油が固まってしまったためにレンズを左右に振ることができず、鳥が移動するたびに「ヨイショ」と三脚ごと動かすことになりました。その後、北海道には数回まいりましたが、冬場は違う三脚を持参しています。

 

エナガの名前は長い尾羽が、ひしゃくの柄のように見えるため。
枝の先端で昆虫、蜘蛛などを捕食。クヌギやカエデなどの樹液を飲む。
樹液のつららがあると、ホバリングしながら滴る甘い液を飲むことも。冬は餌も少なく、大事な栄養源。
写真提供:© HIH Princess Takamado

余談ですが、写真家の嶋田忠さんが経営されている「ザ・バードウォッチングカフェ千歳」に寄せていただいた際、バードフィーディングに使う脂身について貴重なお話を伺いました。お庭に餌台を設置していらっしゃる方のためにシェアさせていただきます。豚や牛の脂身は一度手につくと、石鹼とお湯でゴシゴシ洗わないと取れません。それが鳥につき、羽毛がベタつくと断熱効果が薄れ、康を脅かしかねません。木枠を作り、内部に金網を張って脂身を入れれば、鳥は木枠に止まるので、体への脂付着を最小限に抑えられるとのこと。今まで考えたこともありませんでした。

なお、バードフィーディングに関しては、生態系への影響を指摘する意見もあります。餌の少ない冬場に限定し、新鮮で鳥にとって良い餌を置く、餌台を清潔に保つなど、適切な手順を踏むことが大事と思われます。

 

エナガの世界分布を見ると、顔の白いエナガが分布域の大半を占めており、周辺に顔の濃いタイプが生息。
どのように進化してきたのか、興味深い。
東京や千葉などでたびたび眉班の薄いタイプを見るが、その位置づけはまだわかっていない。
写真提供:© HIH Princess Takamado

閑話休題。シマエナガは顔が白く、正面を向くと丸くてモフモフした雪だるまのような形をしています。簡単にイラストが描けてしまうフォルムに、黒い目、おしゃれなピンクの瞼、そして小さな三角の黒いくちばし。親しみやすさと愛らしい仕草が人々を虜にするのでしょう。私も首を傾げてこちらを見る様子には思わず笑顔になります。

 

まだ寒い2月ごろからペアで繁殖準備に入る。
蜘蛛の糸や蛾のまゆの糸を接着剤に使ってコケを張り付けた楕円形の巣を作る。
遠くから見ると木のコブ。巣の内部にはたくさんの鳥の羽が敷きつめられ、ふかふか。
小指の先ほどの小さな卵を10〜12個産む。
写真提供:© HIH Princess Takamado

恒温動物においては、同じ種であれば寒冷な地域に生息するものほど体重が大きくなるといいます。極寒の地においては体が大きいほうが有利なのでしょう。冬の厳しい北海道でわずか体重8グラムのこの鳥が暮らしていることが奇跡的に感じられ、その輝く姿が、本当に「雪の妖精」に見えてきます。

 

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