群れるムクドリ──共存の形

ムクドリ © HIH Princess Takamado

「レンズを通して」婦人画報誌2022年6月号

写真・文=高円宮妃久子殿下

どの鳥の写真を、いつ、どのようにご覧に入れるか、悩むことがございます。渡ってくる季節が決まっている鳥などは決めやすいのですが、ムクドリは一年中見られる留鳥。あまり考え過ぎずに、今回ご紹介することにいたしました。愛用している歳時記には「椋鳥(むくどり)」は「秋の季語、益鳥である」と書いてあるのですが、最近、ムクドリは街の「嫌われ者」となっており、害鳥扱いされています。その成り行きと彼らとの理想的な共存の在り方について、書かせていただきたいと思います。

ムクドリの仲間は世界中に生息し、ルックスもさまざま。
日本のムクドリは黒色で顔の周りが白、嘴(くちばし)と足がオレンジとなかなかおしゃれな色みである。
写真の手前がメス、奥がオス。
「椋の木の実」を食べることから名前が付いたと聞いていたが、「群来鳥(むれきどり)」という説もあるらしい。
公園など開けたところを好み、我が家の庭などにも数羽で降り立って、虫を食べる姿をよく見かける。
写真提供:© HIH Princess Takamado

ムクドリは古くから人の生活と密接に関わってきた身近な鳥です。春から夏、秋には主に昆虫やミミズなどを主食とし、農耕地で害虫を食べてくれる益鳥です。秋の終わりから冬にかけて、昆虫などの餌が得られなくなるころに、果実が主食となります。「柿やりんごを食べる害鳥」というレッテルを貼られることがありますが、それはいささか気の毒なこと。彼らが本格的に果実食になるのは収穫が終わった後で、木に取り残された柿や落下したりんごを主に食べるのです。

そのムクドリのイメージが悪くなった原因のひとつに、彼らの持つ「群れる習性」が挙げられます。ムクドリは、繁殖の時期には(つがい)ごとに分散して子育てをしますが、それが終わった7月以後の夏から秋、冬と年間の大半は、日中は農耕地や河原などに集まり群で過ごし、夕方にはさらに大群となって集団で(ねぐら)を取るという生活に変わります。その数は秋から冬の時季には数千、稀に数万羽に及ぶこともあり、夕方、塒の上空を大群が飛ぶ姿は、イワシの群が一斉に方向転換をしながら水中を泳ぐ姿によく似ています。

以前、ムクドリはその集団塒を郊外に取っていたのですが、最近は市街地、しかも駅前などの繁華街に取るようになり、その結果、塒の下の道がたくさんの糞と抜けた羽根で汚れるという問題が生じています。また、ムクドリは塒に入る前そして入った後もうるさい声で鳴くため、騒音の被害がある上に、市街地の夕空をムクドリの大群が旋回する様を不気味に感じる方も少なくないようです。

神社の境内にある大木の巣穴から顔を出す一羽。近くの木にほかの番も営巣していた。
木の洞で営巣するほか、人家の屋根裏・戸袋などの隙間や巣箱を利用する。
繁殖期には「キュルキュル」「リャーリャー」と大声で鳴く。
写真提供:© HIH Princess Takamado

かつて私が観たムクドリの大集団が田園地帯の林に塒入りする様子は壮観でした。大自然の中で聞く何万という鳥の羽音や鳴き声は、地響きに包まれているようで、不思議な感動さえ覚えました。しかし、賑やかに、コミュニケーションを取り合う様子に、「コミュ力は大事」などと気楽に言えたのも、自分の生活空間から離れたところであったからこそ。これが毎日、自分の家の近くで繰り返されているのであれば、話は違ってきます。

昔から人の生活に大きく依存することで栄えてきたムクドリは、人と適度な距離を保ってきたのですが、今や人は怖い存在ではなくなってしまいました。郊外に塒を取るよりも、一晩中明るく、人や車の絶えない市街地の方が、夜行性のフクロウなどの天敵から身を守り、安全に夜を過ごせる場所であることを学んだのです。野鳥の大群と人とが一緒に暮らすことは決して両者にとって良い事ではありません。これ以上嫌われ者にならないうちに、郊外の方が安心・安全に夜を過ごせる場所なのだと、彼らに改めて学習してもらいたいものです。

農家が廃棄した柿やりんごに群がるムクドリ。鳥からすれば貴重な冬の餌場。
喧嘩をする時間があるのなら、早く食べればいいのに、と思いながら撮影。
感染症対策が長く続いているため、鳥が群がる様子に「密」という言葉が頭に浮かぶ。
写真提供:© HIH Princess Takamado

秋に見るムクドリの大群は、里の豊かさを象徴するシンボルでした。いつかまた、大自然の中で、夕暮れ時の空を舞うムクドリの大集団を観ながら、あの不思議な音響効果のもたらす感動に浸りたいと思っています。そしてムクドリを「ありがたい存在」なのだと、皆が改めて感じる日が来ることを願っております。相手が鳥であろうと、人であろうと、そのように思えるのが「理想的な共存の在り方」ではないでしょうか。

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