ケニアのハゲワシが絶滅寸前: マサイマラでのライオン毒殺事故でさらに加速
ケニアのマサイマラ国立保護区で起きたマーシュ・プライド(特定のライオンの群に付けた名前。マーシュは湿原、プライドは群の意味)の3頭のライオンの死は英国BBCテレビのシリーズ番組‘ビッグ・キャット・ダイアリー’で取り上げられ、世界の注目を集めました。
バードライフとネイチャー・ケニア(ケニアのバードライフ・パートナー)はこの悲しいニュースにショックを受けました。ネイチャー・ケニアからの次の声明には多くの人が見過ごしている毒死のもう一つの話です。
あまり報告されていませんが、ライオンと同様に悲惨なのは11羽の絶滅危惧ⅠA類のコシジロハゲワシが死んだことです。ライオンもハゲワシも体内にカルボフランと思われる農薬が混入した牛の死骸を食べた後に死にました。違法に保護区内に放牧されていた家畜をライオンが襲った後にマサイ族の牛飼いが死骸に毒を混ぜたものと考えられています。
アフリカのハゲワシ4種がIUCNのレッドリストに絶滅危惧ⅠA類としてバードライフにより先頃リストアップされました。
ハゲワシ類は毒性のあるカーバメイト系の農薬に非常に感受性が強く、こうした生物の死は以下のような大問題を明らかにしています。
- 数百年もの間、野生生物と家畜の共存を可能にしていた農村の伝統の崩壊
- 毒性が知られているにもかかわらず、ケニアでカルボフランのようなカーバメイト系の農薬がいつでも容易に入手できるようになったこと
毒死はアフリカ全土でのハゲワシの激減の主要因です。生息地の喪失、昔からの医薬品取引にハゲワシの部位が使われること、餌の減少もハゲワシが減り続ける主な原因です。
ハゲワシの重要性は、貪欲とか、死と腐敗を運ぶ者などの一般的に思われている性質のために、よく見過ごされてしまっています。大衆文化においても政治家、土地強奪者、汚職役人などがしばしば‘ハゲワシ’にたとえて描かれますが、これは社会が抱いているハゲワシの否定的なイメージに由来する悪口なのです。けれども実際にはハゲワシは環境を清潔に保つという重要な役割を果たしているのです。彼らは人を含むすべての生物が依存している食物連鎖の中の重要な一部なのです。
地域最古の科学協会であるネーチャー・ケニアが以下の行動を取るべきであると呼び掛けています。
1.マサイのコミュニティはコミュニティのメンバーに家畜は保護区の外で飼い、野生生物の毒殺を止めるよう呼びかけることにより、野生生物保護の伝統を守ること。
2.民間部門と政府が協力して、人と野生生物およびミツバチなどの受粉媒介者に対して毒性がある有害な農薬の使用をコントロールすること。
3.一般の人たちは大衆文化におけるハゲワシと、自然界におけるハゲワシは全く異なる性格と機能を持っていることを十分に理解すべきであること。野外でのハゲワシは環境での重要な役割を持ち、空を旋回する姿は素晴らしい眺めです。
事実ファイル:
アフリカに生息する11種のハゲワシのうち4種がIUCNの絶滅危惧種のレッドリストで絶滅危惧ⅠA類と考えられています。それらは以下の通りです。
- マダラハゲワシ: キリマンジャロ山よりも高く飛ぶことで知られる
- コシジロハゲワシ: マサイマラで11羽が毒殺されたが、ナイロビ国立公園は本種に残された重要拠点
- ズキンハゲワシ
- カオジロハゲワシ
・多くのアフリカのハゲワシは最大で98%も個体数が減少し、アフリカ大陸全土で絶滅の危惧があることを示しています。マサイマラでは過去30年でハゲワシが50%減少し、毒入り餌の使用の裏に主因の一つに人と野生生物の競合があります。家畜飼育者は家畜を殺す野生の捕食者への対応としてしばしば毒薬を使います。農薬の使用はすなわち毒物を選んだことを意味し、捕食動物も腐肉食動物も見境なく殺します。1頭の毒殺された死骸が多くの死を招く連鎖反応を引き起こします。毒殺された動物がその捕食動物や腐肉食動物にさらなる脅威となるのです。密猟の目的での毒薬使用もハゲワシに多大な影響を与えています。2012年から2014年の間に7つのアフリカの国で約10回の密猟がらみの事件で2,000羽以上のハゲワシが殺されました。
・野生生物、特にハゲワシが提供する生態系サービスは、代替が効かない、あるいは代替しようとすると多大な費用が掛かります。1羽のハゲワシの清掃サービスはおよそ11,000米ドルに相当する価値があると言われています。ハゲワシの個体数減少は人の健康にもマイナスの影響をもたらすと想定されています。またこれらの毒性の強い農薬は川に流れ込み、川の水を利用する人々の健康に一層大きな脅威を招く可能性があります。それに加えて、正しい訓練と防護なしにこれらの農薬を取り扱うことは使用者への危険を招くかもしれません。
・化学農薬の広範囲の使用による意図的、偶発的毒殺が多発していることを鑑み、化学農薬や他の毒性の高い化合物、特にハゲワシや他の野生生物に死をもたらすことが分かっているものについて、輸入、製造、流通、販売及び使用に対して政策に裏打ちされた厳しい規制が求められています。
・ケニアの野生生物法92条によれば、「絶滅危惧種に危害を加える、あるいはこれらをトロフィーにするような犯罪を犯した者は有罪判決により2千万シリング以上の罰金あるいは終身刑あるいはその両方の法的責任を負うものとする」としています。
・生活の質の改善におけるハゲワシと生物多様性を守ることの重要性に対する認知度を高めるためには、政府、当局、市民社会、地域コミュニティおよび一般市民が協力して努力する必要があります。
報告者: Paul Gacheru
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