‘スター・ウォーズ’のダークサイド
ここはほとんど人のいない岩だらけの島です。緑の草はでこぼこの地面が平らになった場所に生えています。岩に砕ける波の音を中断するのは数千羽のヒメウミツバメ、ニシツノメドリ、ミツユビカモメ、マンクスミズナギドリ、そして‘ズズズンンン’というライトセーバーの音だけです。
この場所はスケリグ・マイケル島と言い、アイルランドの南西岸沖13kmにある州が所有する島です。このユネスコの世界遺産はかつて6世紀にキリスト教隠修士のために作られた石の‘ハチの巣状の小屋’のあった修道院の跡地で、今ではヨーロッパを代表する鳥の繁殖コロニーになっています。
スケリグ・マイケル島の海鳥の個体数に関する入手可能な最新のものは15年前に行われた‘海鳥2000調査’によるもので、クロウミツバメ9,994繁殖ペア(アイルランドの個体数の10%)、マンクスミズナギドリ738繁殖ペアと推定されました。
何故孤島が海鳥にとって魅力的な場所であるかは理解できます。何世紀にも亘り、クロウミツバメは小屋の石と石の間や、石の壁の近くに営巣してきました。またこの島のマンクスミズナギドリとクロウミツバメのコロニーは世界で最大のものです。
巣の中のミツユビカモメの雛
写真提供: Laura Glenister
彼らは恐らく修道院の廃墟がウォルトディズニー社とルーカス・フィルム社の目を引くとは思いませんでした。両社はこの廃墟を映画‘スターウォーズ’の主人公ルーカス・スカイウォーカーの理想の瞑想場所と考えました。
9月8日、アイルランド歴史遺産大臣(アイルランド映像委員会、国立公園及び野生生物サービスを担当)のヘザー・ハンフリーズは映画‘スターウォーズ’(エピソードVIII)のキャストと撮影メンバー180人に撮影のために島に上陸する許可を与えました。発表から数時間内に撮影チームは膨大な撮影機材と共に上陸し、ほぼ2週間を撮影に費やしました。
9月中旬という時期にはスケリグ・マイケル島の多くの海鳥、有名なツノメドリ、ミツユビカモメ、ウミスズメ、オオハシウミガラスなどは繁殖が終わり、雛と共に島を離れています。
けれども、数千羽のウミツバメやミズナギドリの雛はまだこの時期には日中の撮影を行っている時間帯には巣穴の中に居ます(彼らは9月または10月まで巣立ちをしない)。親鳥は日中は海に出て餌を探していて、暗くなると雛に餌を与えるために島に戻って来るために島への訪問者には気づかれません。
アイルランド政府の生態学者に撮影を監視させるという柔軟な姿勢があったものの、バードウォッチ・アイルランド(同国のパートナー)や他のNGOは一般の人や専門家との協議を行わず、海鳥の営巣への影響に関して科学的な証拠なしに撮影許可が出されていると抗議をしています。親鳥が雛に餌を与えるために海から戻る夜間にも、島やその周辺でヘリコプターを使った撮影をすることも認められました。
「今回の透明性を欠いたやり方は特に納得できません。欧州で最も重要な海鳥のコロニーに悪影響を及ぼす可能性があるこのような決定が相談も協議もなく秘密裏に行われたことだけでも受け入れられません。特に群島のもう一つの島リトル・スケリグ島にはバードウォッチ・アイルランドの保護区があり、二つの島を合わせて海鳥繁殖のIBA(重要生息環境)に指定されている事実からも容認できません。」とバードウォッチ・アイルランドの上級海鳥保護オフィサーのスティーブ・ニュートン博士は言いました。
仮に雛や親鳥に影響がないという最善のケースを想定しても、ドブネズミやアメリカミンクなどの外来捕食動物が撮影機材の搬入時に偶然入って来るというリスクは想定されていないようです。
‘スターウォーズ’の撮影隊の島への訪問はこれが最初ではありません。バードウォッチ・アイルランドや他のNGOの激しい反対にもかかわらず、2014年7月の海鳥の繁殖期に2週間に亘り撮影が行われました(‘スターウォーズ エピソードVII フォースの覚醒’)。島で繁殖する鳥への長期的な影響は分かりませんが、その時には数百羽のミツユビカモメの雛が崖の上の巣からヘリコプターの気流により海に落下し溺れ死んだという気掛かりな報告があります。
法律で定められているにもかかわらず、2000年以後州が海鳥の営巣地で総合的な調査を行っていないということは、‘スターウォーズ’の撮影による真の影響のアセスメントを大きく妨げるものです。今からではもう島の脆弱な海鳥の個体群への長期的な影響を判断することは出来なくなってしまったでしょう。
報告者: Niall Hatch
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