ネパールで人工飼育されていた絶滅危惧ⅠA類のハゲワシが放鳥へ
多数のハゲワシを死に追いやってきた薬品ジクロフェナクのネパールでの使用禁止を目指してきた保護活動団体の努力は実を結びつつあり、ハゲワシの個体数は安定しています。ハゲワシの生息環境の安全性が改善した今こそ、人工飼育されていた6羽のベンガルハゲワシを野外に放鳥する時です。
南アジアに生息するハゲワシ類がこの数十年で壊滅的な個体数の減少に見舞われたことはよく知られています。例えば、ベンガルハゲワシは1992年から2007年までの間にその99.9%が姿を消しました。家畜の鎮痛剤として抗炎症薬ジクロフェナクが使用されていたことが原因です。この薬が施された家畜の死骸をハゲワシが食べると、致死的なダメージを受けるのです。2006年にはインド、ネパール、パキスタンで、2010年にバングラデシュで獣医薬としてのジクロフェナクの使用が禁止されたことで、これらの地域ではハゲワシの個体数が安定し、場所によっては回復の兆しが見られるようになりました。
しかし、南アジアの9種のハゲワシ類のうち5種は、依然として絶滅危惧IA類またはIB類のままです。人用のジクロフェナクが家畜に使用されたり、ハゲワシに有害な別の獣医薬が使用されたりしていることが要因と考えられており、南アジアのハゲワシ類の絶滅の脅威は解消していません。バードライフのパートナー団体は、政策提言や立法、教育などの活動を展開し、この状況を変えようとしています。
ネパール野鳥の会(ネパールのバードライフ・パートナー)はRSPB(英国のパートナー)の支援を得て、ジクロフェナクをネパールから無くす活動に尽力してきました。「私たちはナワルパラーシ郡の薬屋を訪れることから始めました。大ビンで売っているジクロフェナクを買い集め、その一方で、安全な代替薬(メロキシカム)を提供し、ハゲワシの啓発を行いました。」とBCNのハゲワシ保護プログラムの責任者だるKrishna Bhusalは述べています。「今では、この地方からジクロフェナクは完全になくなりました。」
地方ごとに、また、薬品販売店から農家の息子に至るまで、このキャンペーンを継続していますが、終わりを迎えつつあります。最終目標は巨大な複数の地域にまたがる「ハゲワシ安全地帯」を創設することです。
その一方で、ベンガルハゲワシは2008年以降、保険目的で人工飼育されています。現在、ハゲワシにとって安全な地域を確保できたため、BCNとRSPBは南アジアでは初となるハゲワシの放鳥を準備しています。
衛星発信機を装着された6羽のハゲワシが現在、チトワン国立公園の近くに建てられた順化ケージで飛行訓練を行うと同時に、「ハゲワシ安全給餌サイト」(地図参照)を利用している野生のハゲワシと金網越しに交流させています。2017年末にはケージのドアは開け放たれ、ネパールにおけるハゲワシ復元の一里塚となるでしょう。
「放鳥後ハゲワシを追跡することで、多くのことを学び、何かしら危険があった場合にも対処できるでしょう。」とRSPBの保護科学センターの上級保護科学者であるToby Galliganはコメントしています。「今後3年間にわたり、放鳥するハゲワシには衛生発信機を装着する予定です。」
報告者:Shaun Hurrell