韓国のレシピがシギ・チドリ類を救う
韓国の西海岸にコンクリートで固められた海岸の中に貴重な干潟が残されています。バードライフとエコツアーに取り組む地方政府による共同訪問の話題に続き、ユブ島、島の人々、有名な料理、そして数百万羽の鳥についてお伝えします。
軍用ジェット戦闘機が頭上を飛ぶ度に、数千羽のシギ・チドリ類が飛び立ち、中断した採餌を再開するために群を作って旋回し着地します。南を見ると2キロも離れていない所に、霞を通して別世界のような韓国西海岸中央部の巨大な工業地帯の建物群が見えます。
私たちは、乗船前に河口に浮いている数多くのパイプがガチャガチャ音を立てながら巨大な浚渫機からポンプで砂を汲み上げているのをみました。さらに南には目では見えませんが、史上最大の干拓プロジェクトの一つ、全長33㎞のセマングム防潮堤が、以前は手付かずだった400平方キロメートルの潮間帯環境を囲んでいます。
黄海地域との境になるこの場所や他の多くの干潟の喪失は、シギ・チドリ類がコンクリートの中からやっとの思いで干潟を探し出せたとしても、残る干潟には限られた餌しか残っていないことを意味します。
しかし、セマングムの僅か北には想像もできないような希望の光があります。そこは、豊かな干潟と数件の掘っ立て小屋があるだけの小島です。そこでは生命は泥の恵みを受けた魚や貝に依存しています。ここソチョン郡では、地方政府がこのエリアの自然の価値を理解し、鳥と住民のためにこのエリアの保全に全力を尽くしています。
ヨブ島と同島がある広義のグム河口は、韓国における渡り性シギ・チドリ類にとって最重要なサイトと考えられています。
韓国に来る渡り性シギ・チドリ類の推定70%がここで観察され、オーストラリア、ニュージーランドから北極圏ロシア、アラスカにかけてのフライウェイ上の重要な燃料補給「中継地」です。これらの事から、このエリアはIBA(重要生息環境)、ラムサール・サイト、東アジア=オーストラリア・フライウェイ・パートナーシップ(EAAFP)のフライウェイ・ネットワーク・サイトに認定されています。毎年往復2万キロという、驚くような距離を渡るこれらの鳥にとってここは一時の休息をとり、採餌する・・・生き残るために必要な場所なのです。
ユブ島は住民に対し、鳥を守りつつ、バードウォッチングと名物料理ツアーという特別な機会を提供しています。
私たちの周りの空中や干潟にいる千羽を超えるシギ・チドリ類の大群の中には、世界的にもかなりの数のミユビシギ、オバシギ、ホウロクシギ、キリアイやここで繁殖するミヤコドリ、容易には見ることができませんがいるはずのヘラシギなどがいます。
この素晴らしい自然現象を利用してソチョン郡政府は、グム川(錦江)に渡り鳥センター(MBC)などのエコツアー用の施設を建設しました。これは主に子供の教育に焦点を当てた素晴らしい施設で、ソチョン沿岸はネーチャー・ツアーのルートの一部として毎年新鮮なシーフードを味わい、バードウォッチングを楽しむ数千人の訪問者を迎えています。
ほとんどが60歳を超えているユブ島の住人は、豊かな泥地をゆっくりと歩き、数世紀前からやってきた伝統的な手作業の道具で食糧を集めますが、決して取り過ぎたりしません。彼らの視点で河口を見れば、彼らが何故干潟の資源を鳥と文書化していない合意により共有していることや、対岸での差し迫った開発にもかかわらず次世代に確実に引き継ごうとしているか理解できます。
貝類の豊かな多様性や有用性や海産物がこの地域の文化の中心にあり、全体としてソチョン郡の観光業の象徴になっています。バードウォッチングや文化的な経験を環境に優しい方法で行うなら、ユブ島の観光に貢献することで、ここの貴重な干潟の環境を、工業化から守ることが十分できるでしょう。
国を挙げての自然保護への関心と誓約の増加、韓国政府主催の大規模な国際会議の開催、そして韓国人鳥類学者・生物学者の増加により、環境問題への取組が重要性を増しています。韓国人鳥類学者で私たちをユブ島へ引率してくれたシギ・チドリ類の研究者Young-min Moon博士は、次のような個人的見解を私たちに伝えてくれました。
「このサイトはシギ・チドリ類にとって世界的に重要なサイトであるからだけではなく、その環境と文化的遺産を守るという韓国の誓約の象徴として、守らなければなりません。それは韓国政府が成し遂げたいことであり、人々もその結果を見たいと思っています。」
韓国政府はこれまでに、12カ所のサイトを韓国のエコツーリズム・サイトに指定しましたが、その中にソチョンが含まれており、そこでは郡の役人が工業の拡大に代わる代替策を強く推進してきました。この目的を支援するためにバードライフとソチョン郡は、2014年「環境と種の利益ためにシギ・チドリ類を保護し、自然に親しむ観光業を育成する」覚書に署名しました。
私たちのユブ島訪問と、それに続く「世界湿地の日」のイベントは、ソチョン郡の任務を支援するために合意された活動計画の一部でした。
私たちのヨブ島訪問に同行したソチョン郡のエコツーリズム局の代表は、「過去12年間、ソチョン郡の優先事項は持続可能性と自然保護でした。」と、私たちに述べました。これは私たちの保全に対する共同の誓約を再確認するものです。
ソチョン郡がパートナーシップを積極的に受け入れていることから、Woodside Energyとバードライフ・オーストラリアが今回加わることができ、彼らは東アジア=オーストラリア・フライウェイ(EAAF)沿いのより多くの環境を保全することを約束しました。
EAAFPAの包括的保全対策として韓国政府は、ユブ島とその干潟を世界遺産に指名しようとしています。それにより国際的な認識と国内での保全度の向上が可能になります。住民の一人が、「私たちは皆、高齢者です。若者は既に漁業を営みたいと思っていません。また、ここには何も残されていないので島に住もうともしないのです。」と述べていたので、一日も早く世界遺産に指名されることが望まれます。
平穏な島を離れ、パイプのガチャガチャなる音や電動クレーンへ向かうべく、ボートに飛び乗る時、グループのメンバーはめっきり元気がありません。しかし、「名誉あるグムの泥をブーツに付けて」(チームの一人の足に付いていた)戻れることは、ユブ島には豊かな泥地があることを証明しています。また、課題は多いですが適切な支援があれば、島はバードウォッチングと名物料理ツアーにより住民を快適な生活に導き、また、数百万羽の鳥に安全な休息地と栄養補給を提供する特別な機会を与えることが出来ることを思い出させてくれます。
今やるべきことは、渦巻くように飛ぶシギ・チドリ類の素晴らしさと、豊富な貝類から恩恵を受けるこの地の将来を担う人々を魅了するために十分な、この危惧される自然の安息の地(及び、黄海沿岸の他の場所)に注目を集めることです。]
報告者:Samir Whitaker
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