都市のスズメ: 香港の群れ

都市に適応したスズメ 写真提供: © Minoru Karamatsu

都市部に住んでいる人にとってスズメは唯一目にする野生生物との交流を示す鳥であることがよくあります。スズメが換気口、パイプ、壁の割れ目を好むことが調査により明らかになっています。

「光の都」香港の中心部はそびええ立つ超高層ビル群と派手な看板がひしめきあっていることで有名です。高度に都市化していることが知られていますが、香港の面積の4分の3は未開発な山地で、風変わりな鳥や野生生物が豊かな数多くの自然保護区があるのです。

ところが香港住民の100%が密集市街地に住んでおり、地味なスズメを除いては野生生物と接する機会がほとんどありません。スズメは欧州では用心深い、田舎の生物で、人の近くや住宅に営巣しません。

けれども香港ではこの小鳥は都市の庭や公園では人懐っこく、見慣れた存在です。実際に最近の調査で、スズメが樹木よりも換気口、パイプ、壁などに巣を作ることの方がずっと多いことがわかりました。この情報は香港で初めてのスズメの調査により得られたもので、それは普通種の鳥に関する初めての調査でもあり、また初めての地元の市民科学プロジェクトにより行われたものでもありました。

多くの人は鳥の調査と聞けば科学研究者や絶滅危惧種を思い起こしますが、この調査はまったく違います。香港観鳥会(HKBWS: 香港のパートナー)が企画したこのセンサスには6歳~80歳の420人の経験の少ないなボランティアが参加し、地元のスズメの数を数えました。スズメはノルウェーからベトナムまで広範囲に生息する普通種です。

一日で彼らは4,500羽のスズメをカウントしました。この観察に基づきHKBWSは都市エリアに1平方キロメートル当たり平均1,434羽のスズメが生息していると推定しました。ところで、なぜスズメのような普通種の数を数えるのが重要なのでしょうか?保護活動家は希少種、絶滅危惧種の記録をつけることにエネルギーを注ぐべきなのではないでしょうか?

はた目には時間の無駄のように思るかもしれませんが、実際には鳥は環境の健康度を測るのに適した指標なのです。

欧州野鳥センサス委員会(EBCC)も言っているように、「普通種の鳥は広範囲に生息し、比較的識別やカウントが容易で、土地利用や気候変動に敏感で、一般の人にもよく知られているので良い指標になるのです。」バードライフとEBCCは2002年に「汎欧州普通種モニタリング・スキーム」を開始し、それ以後、世界中の他の自然保護団体も同様のイニシアティブを始めました。

「一般の人たちが加わることで、私たちは鳥類保護をさらに進めることができるでしょう。。私たちの最終目標はスズメの個体数の傾向に関する長期的データを集めると共に、人々が保護活動の経験を積めるよう促すことです。」とHKBWSの調査マネジャーのYu Ya-tungは言っています。

コミュニティによる調査から国際的スケールの調査までに、科学調査に市民が関わる市民科学が一般化しつつあります。過去20年で、データ収集とその処理に数百万人の人々が世界各地の数万件の市民科学プロジェクトに参加しました。

人気のあるeBirdサイトからアフリカのMammalMap(哺乳類マップのサイト)まで、専門家以外の人が調査に参加できる機会は年々増加しています。コーネル大学の最近の調査によれば、市民科学プロジェクトが科学とその手法に関する参加者の知識を増加させ、科学調査への一般の関心を高め、人々の趣味により深い意味を与えているということが明らかになりました。

またこの研究では市民科学は社会課題の対応にも貢献し得ることも明らかになりました。自然との接点が薄れている現代においては、市民科学は人々がスマホをオフにし、身近な自然に触れることに戻る機会を生み出すのに役立ちます。

自然に身を置くことは、ストレスやうつ病などの症状を改善し、健康や幸福感を増幅させ、また野外活動は子供たちにより良い行動や学びを促します。

家族と一緒にこの調査に参加したNelson Tangは「このセンサスを行った後、娘が全校集会の時に級友に自分の経験を話しました。センサスは彼女に自然について学びこれを楽しむすばらしい体験となりました。」と言いました。

この調査とその最初の結果はスズメにとって希望となるものです。スズメは過去30年の間に英国や西ヨーロッパでは懸念されるほど減少しています。スズメが世界で最も人口密度の高い地域の一つで栄えているという事実は驚きであり、心強い事でもあります。

(訳者注: 日本においても過去30年の間にスズメの個体数が3分の1に減少したと言われている。原因は家の構造が気密性の高いものに変わったことによる営巣場所の減少や農村部でのコンバインの普及による冬季のえさ不足などが考えられているが明確には分かっていない。)

 

報告者: Louise Jasper

 

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