ダイシャクシギが危機に
ダイシャクシギやオオソリハシシギなど大型のシギ・チドリ類(Numeniini族 訳注:属よりも上位の分類区分)は、最も絶滅の恐れが高い鳥類かも知れません。事実、既にその中の2種が絶滅したか可能性があります。
初心者にとってダイシャクシギは憶病で控えめな鳥の仲間です。彼らのまだら模様の茶色い羽毛は湿地や干潟の採食地では効果的なカモフラージュになります。彼らは人に気付かれることなく、捕食に特化した曲がった嘴を使って無脊椎動物を食べて生活しています。しかしながら、彼らが餌をとるときのように、私たちもダイシャクシギについての理解を掘り下げていけば、彼らが美しく、素晴らしい鳥であることが分かるでしょう。
Numeniini族とはダイシャクシギ、チュウシャクシギ、オオソリハシシギ、マキバシギなどで構成される大型のシギ・チドリ類を指します。彼らは最も広範囲に分布し最も長い距離を旅する鳥の一つで、北半球の繁殖地の高原や草原から南極を除くすべての大陸の最南端の湿地や沿岸の非繁殖地まで渡りを行います。
実際にNumeniini族の一種であるオオソリハシシギは途中で採餌をしないノンストップの長距離移動の世界記録保持者です。人工衛星追跡調査により、ある個体群が毎年アラスカの繁殖地から11,000㎞離れたニュージーランドまで8日間で飛んでいたことが分かったのです。
彼らがこれまでバーダーからやや見過ごされていたのはおそらく分布域の広さのせいでしょう。あるいは彼らのカモフラージュが上手すぎたことも一因かもしれません。理由が何であれ、驚くべき最新の調査によりダイシャクシギが地球上で一番でないにしても最も絶滅が危惧される種の一つである可能性があることが判明しています。今や彼らを絶滅から救い出す対象になくてはなりません。
Bird Conservation International誌に発表された、RSPB(英国のパートナー)、BTO(英国鳥学会)、国際シギ・チドリ類研究会による論文には、世界中の100人を超えるシギ・チドリ類の専門家の見解がまとめられています。彼らの見解はダイシャクシギが渡りの途上で直面する脅威に懸念を示すものでした。専門家たちは、Numeniini族の13種のうちの7種、即ち半分以上が絶滅の危機にあると結論づけたのです。
実際にダイシャクシギ類のうちの2種が既に絶滅した可能性があります。シロハラチュウシャクシギはかつて地中海周辺と繁殖地のシベリアの間を渡っていましたが、1995年に確認されたのが最後です。エスキモーコシャクシギはかつてカナダと南米の間を渡っていましたが、1963年以降確認されておらず(南米では1939年以降)ほぼ確実に絶滅しているでしょう。
エスキモーコシャクシギの窮状はより広く喧伝されているリョコウバトの絶滅と類似しています。このシギは一時は数百万羽居ましたが、大規模な狩猟と春の中継地であるロッキー山脈地域の生息地の喪失が、絶滅していないとしても、少なくとも激減を招いた大きな原因です。もし今でも生き残っているとすればカナダの大自然の中の未知の一角にいる小さな個体群でしょう。
これらの絶滅危惧ⅠA類に対する狩猟は依然として続いていますが、論文はまだ数が多いと分かっている種が直面する脅威についても緊急に対策を検討すべきであると述べています。
また、研究によりダイシャクシギやその仲間の将来にとっての最も深刻な脅威は、生息地の喪失と沿岸の湿地の劣化である可能性が高いことが明らかになりました。沿岸湿地は非繁殖地域での塒と採餌場、渡りの際の栄養補給のための中継地として依存している場所です。
Numeniini族や他の水鳥が中央アメリカ、アメリカ大西洋岸、東大西洋のフライウェイでこの脅威に直面していますが、沿岸開発が急速に進むアジアではさらに深刻です。黄海の干潟の4分の1が1980年代以降に消失し、残った干潟のほとんどが大きく劣化しています。その結果、これらの干潟を中継地とする少なくとも27種の渡り性水鳥が絶滅の危険に直面しています。上述のオオソリハシシギ(準絶滅危惧種)の他に、27種の中にはシロハラチュウシャクシギや世界最大のシギであるホウロクシギ(絶滅危惧IB類)のほか、彼らに準ずる危機を迎えているエスキモーコシャクシギやシロハラチュウシャクシギも含まれます。
これらの生息地の消失や密猟、持続不能な狩猟のために、東アジア・オーストラリア・フライウェイは渡り鳥にとって世界で最も危険なルートの一つとなっています。バードライフ・オーストラリアは既に東アジア・オーストラリア・フライウェイ・パートナーシップおよびCMS(移動性野生動物種の保全に関する条約)の下での政府間合意による本種のための行動計画の実施においてオーストラリア政府を支援しています。東アジア・オーストラリア・フライウェイにおけるキャンペーンのページはこちら。
欧州と北アメリカでは、越冬地や中継地よりも繁殖地の方に多くの問題があるようです。この地域では土地利用が変わり、特に農業と林業の変化やキツネとカラスによる捕食の増加が野鳥の減少の要因になっているようです。特にイギリス諸島はフィンランドとロシアと並んで世界のダイシャクシギの大繁殖個体群を有しており、オランダはオグロシギの最重要地です。
ダイシャクシギは世界で最も危険な渡りのルートを旅している
国連環境計画のアフリカ・ユーラシア渡り性水鳥保全協定を介したこれらの2種に対する政府間行動計画が、国際ワーキンググループによって実施されています。オグロシギに関してはVBN(オランダのパートナー)の協力のもとオランダ政府が進めており、ダイシャクシギについてはRSPB(英国のパートナー)が実施しています。RSPBは英国内でのダイシャクシギ復活プログラムも主導しています。
湿地の消失に加え公害や気候変動、外来種、人による攪乱などの様々な脅威に対する対策が行われないままでは、これらの鳥はいずれ絶滅するでしょう。事実、その中の2種は既に絶滅してしまったかも知れません。
「野生の呼び声とも言うべき心に響くような鳴き声を持つこれらの大型のシギ・チドリ類は地球上で最も絶滅が危惧される渡り鳥のグループです。既に13種のうちの2種が失われたかも知れず、私たちは残る種が瀬戸際に達するのを防ぐために緊急に協調の取れた行動を取らねばなりません。」とRSPBの論文の共著者Nicola Crockford氏は述べています。
論文では、欧米での沿岸湿地の喪失と劣化に取り組み、繁殖率を高めることの他に、これらの種を守るために取るべき幾つかの活動を挙げています。特に東アジア・オーストラリア・フライウェイにおける繁殖個体群の傾向と土地被覆の変化をモニタリングすること、および主要な非繁殖地の保全などが含まれています。
ところでNumeniiniと言う言葉はギリシャ語の新月に由来しており、嘴の形状を表したものです。この長距離飛行を行う象徴的なシギ・チドリ類が晩年を迎えないよう、保護活動が十分に効果を発揮することを期待しましょう。
原文はこちら
報告者: Alex Dale