レンズの向こうのフォトグラファー、Derren Foxさんと南半球のアホウドリたち
今回は、「南半球アホウドリ物語」にいつも写真を提供してくれる研究者兼フォトグラファー、Derren Foxさんに独占インタビューさせていただきました。Derrenさんはサウスジョージア島のバードアイランドに2度現地入りし、合計四年以上過ごしました。亜南極に位置するこの島での今季の仕事を終えるにあたり、カリスマ性のあるアホウドリ類とともに暮らしたことや、「南半球アホウドリ物語」の活動の必要性について振り返っていただきました。
– この亜南極に位置するバード・アイランドに来た経緯を教えていただけますか。二度目の滞在として再びこの島に来ようと考えたきっかけは何でしょうか。
2007年に初めてバード・アイランドにやってきました。それ以前は、長期にわたりスコットランドにて英国王立鳥類保護協会(Royal Society for the Protection of Birds)の仕事をしていたのですが、そこで海鳥に夢中になりました。英国南極調査隊(British Antarctic Survey)の一員として、この唯一無二の島でアホウドリ類のような特別な鳥とともに働くことができることは、私の人生にとってまたとない素晴らしい機会だと思いました。バードアイランドでの2回目の任務はたったの1年と半年です。人生のうちの4年間を、この全長5kmの島でたった3人と過ごしたことはとても貴重な経験です。私は多くの人々から遠く離れた自然のままの環境が大好きなようです。
– Derrenさんははとても素晴らしい写真家として知られていますが、どうやって撮影技術を学んだのですか。また、写真を撮ることで自然や野生動物との繋がりを感じると思いますが、それは写真家として、また個人的にどのような役割を果たしていると思いますか。
ありがとうございます。写真は独学なのですが、何度も挑戦と失敗を繰り返し、そこから得た経験から学ぶことが多くありました。また、素晴らしいフォトグラファーや映画製作者からインスピレーションを得ることもあります。私の撮影した写真は、個体群や生態系の長い年月をかけた調査に用いられ、また時には正確な個体数調査に使われることもあります。でも実は「南半球アホウドリ物語」のようなプロジェクトを通して多くの方々に見てもらうことこそが、写真が真の役割を発揮できると思います。世界中の人々、特にサウスジョージア島のような地域に行けない方達に、アホウドリたちがどれだけ素晴らしい鳥で、その一方でどれだけ脆い生き物であるかを知ってもらうことにやりがいを感じます。
– バードアイランドの生活で一番良かったことは何でしょう。
最も良かったことは、野生動物です。こんなに多くの野生動物が身近にいる場所はめったにありません。調査基地の裏口のすぐ外にはオットセイの赤ちゃんが寝ているし、ペンギンの群れを通り過ぎて15分も歩けば、珍しい種類の鳥の住処である尾根や草地に行くことができます。この信じられないほど素晴らしい生物の生活を目の当たりにできるのは、まさしく現地入りしている調査隊の特権といえるでしょう。
– 逆に辛かったり悲しかったことはありますか。
家族や友達と離れて暮らさなければならないことです。愛する人達と1年半以上離れて暮らすことはとてつもなく寂しく、この島に暮らすには沢山のことを犠牲にしなければなりません。ですが、週末にふらっと家に帰れないとしても、コミュニケーションのシステムが充実しているおかげで、家族との会話は比較的簡単にできるんです。
– 今回のサウスジョージア島の滞在中、最も心に残る思い出は何だったでしょうか。
最も心に残る思い出は不幸にもかなり悲劇的なものでありましたが、まさしく「南半球アホウドリ物語」のようなキャンペーンの必要性を感じたものでした。他の島で一緒に暮らしたことのある親友の誕生日に、ワタリアホウドリのつがいが卵を産みました。友人へのプレゼントにと思い、このワタリアホウドリの家族を季節を追って撮影し、翌年まで雛の成長を観察し続けました。雛が8か月を迎えて巣立ちが近くなってきた頃、はえ縄漁によって捕まえられたワタリアホウドリの写真が送られてきました。その鳥の個体識別データと巣のデータを照らし合わせるために、ある巣に向かいました。そしてとても悲しい気持ちになりました。偶然にも、はえ縄漁の漁具にかかって死んでしまった雌鳥は、今まで観察し続けてきた雛の母親だったのです。雛が巣立つまでの1か月間、つがいの雄は、なんとか一羽で雛に十分な餌を与え続けることができました。幸運にも雛が無事に巣立てたのは何よりの救いでしたが、死んだ雌鳥がその雛の親だと知った日はとても悲しい日となりました。
– バードアイランドに滞在中、個々の鳥を見分けることはできましたか。異なる種類や個体の個性でなにか印象深かったものはありますか。
もちろん見分けられますよ!繁殖期中は、異なる種類の特定のコロニーを毎日観察しなければならない期間があります。そうすると個々の鳥の違いが見えてきます。特に怒りっぽい鳥は区別しやすいですね。たとえば、コロニーを慎重に通り過ぎようとしているときに当然のように噛みみついてきたり。それから島のいたるところにある背丈の高い草を風よけにしながら座って休憩していると、積極的に近づいてくる鳥もいたりします。ワタリアホウドリの若鳥ははとても好奇心が強いんです。つがい相手を見つけるために若鳥たちが集まって求愛行動を披露しあっているところで、静かに座って観察していたことが何度かあります(もちろん彼らの写真を撮るためにそこにいたんです!)。一羽がグループから抜け出してこちらに近づき、私が何をしているのかと調べに来たこともありました。
– 「南半球アホウドリ物語」に登場する4種類のアホウドリのうち、お気に入りはいますか。
一種類に絞るのはとても難しいんですが、ハイイロアホウドリが一番のお気に入りです。急勾配の崖にこだまする彼らの忘れがたい鳴き声は、島に春の訪れを知らせるものです。ですが、悲しげでもの寂しげな鳴き声は心に訴えかける美しさも持ち合わせています。濃い灰色の羽毛は地味に見えますが、よく見るとわかる鮮やかなブルーのラインを帯びたくちばしや、全身を包む羽毛のグレーのグラデーションは絶妙で美しく、目を見張るほど魅力的です。
– これからについて教えてください。
これからの帰路が本当の冒険となりそうです。フォークランド諸島からアメリカ東海岸のメイン州まで、「Pelagic」と呼ばれる全長16m程のヨットで、船長と二人きりで航海します。そこで私は下船しますが、ヨットはその後グリーンランドまで行く予定です。先ずはビザを取得するため、フォークランドからバミューダまで(約11,200km)ノンストップで向かい、そこからヨットの整備のためにメイン州に向かいます。私は飛行機でメイン州からイギリスに移動し、そこで家族と数週間過ごします。その後はウミスズメの追跡調査のためにアイスランドに向かうことになっています。
Derrenさんは今年の春にバードアイランドを発ちましたが、アホウドリたちの素晴らしい写真をたくさん撮りためておいてくれました。「南半球アホウドリ物語」のTwitter、Instagram、FacebookではDerrenさんや他の調査員が撮影する写真を通して、アホウドリたちが子育てに奮闘する姿や可愛らしい雛の成長を紹介しています。ぜひご覧ください。
「南半球アホウドリ物語」はDarwin PlusとSouth Georgia Heritage Trustよりご支援をいただいています。
原文は、RSPBのウェブサイトからご覧いただけます。