生命の網を守ろう
私たちの食料、医薬品、清浄水や数百万人の人々の生計手段の源が世界中の動植物が急速に減少しているために危機にさらされているようです。これは国際自然保護連合(IUCN)のレッド・リストの最新版からも読み取れます。
ブラジルのリオデジャネイロで開催される国連持続可能な開発会議の前日に発行された‘Species=種’によれば、評価が行われた63,837種のうち19,817種が絶滅の危惧にあるとのことです。その中には両生類の41%、礁を作るサンゴ類の33%、哺乳類の25%、鳥類の13%、針葉樹の30%が含まれています。IUCNのレッド・リストは世界の生物多様性の健康度を示す重要な指標です。
「持続可能性は地球に暮らす人々の生死にかかわる問題なのです。」とIUCNの総裁Julia Marton-Lefèvreは言いました。「持続可能な未来は、自然そのものだけでなく、そこに依存している70億人の人類にとって、動植物の多様性、それらの環境と遺伝子を守らなくては達成することができません。最新のIUCNのレッド・リストは地球上の生命の網を守るためにリオデジャネイロに集まった世界のリーダーたちへの明快な呼びかけなのです。」
豊かな国のほとんどの人たちは食品需要に対して主に飼育・栽培された種に依存していますが、その他の大多数の人たちは野生種に依存しています。淡水の生態系が人口の増加と水資源の無秩序な利用による大きな圧力を受けています。重要な食物である淡水魚は持続可能ではない方法による漁と公害やダムの建設に起因する環境破壊で脅威に直面しています。世界の内陸漁業の4分の1はアフリカ大陸で行われていますが、アフリカの淡水魚の27%に危惧が及んでおり、その中には重大の過剰漁獲が行われている、マラウィ湖地方で最重要な食料源であるオレオクロミス・カロンガ(魚の名:和名なし)も含まれています。その他の地域でも調査が行われており、IUCNレッド・リストの最新版ではインドーミャンマー地方を流れるメコン川下流域の固有種で、重要な商業魚種であるMekong Herring(仮称:メコンニシン)が過剰漁獲と環境劣化により絶滅危惧Ⅱ類にリストされました。
世界の一部では海岸地方の住民の90%が食物の大部分と主たる収入を漁業により得ていますが、過剰漁獲により一部の商業魚の資源量が90%以上も減少しています。エイ類では36%が絶滅の危惧があります。2億7千5百万人以上の人たちが食料、海岸の防御、生計手段としてサンゴ礁に依存しています。世界中ではサンゴ礁での漁業は年間68億ドル(約5兆4千万円)の価値を生み出しています。過剰漁獲は世界のサンゴ礁の55%に影響を及ぼしており、IUCNのレッドリストによれば、経済的に重要な大きなサンゴ礁の魚種であるハタ類の18%に危惧が及んでいます。サンゴ礁は数百万人の人たちがタンパク源として依存している重要な食物を今後も確実に供給できるよう持続可能なやり方で管理されなければなりません。
「種がもたらすサービスと経済価値は他のものに替えることが出来ず、私たちの幸福にとって重要です。」とIUCNの種の保存委員会(SCC)の副会長ジョン・ポール・ロドリゲスは言いました。「私たちが自然が設定した限度の中で生活し、自然資源を持続可能な方法で管理しない限り、益々多くの種が絶滅に追い詰められるでしょう。自分たちの責任を無視すれば自分たち自身の存続を危うくするのです。」
栽培種のビートの原産種である絶滅危惧ⅠA類のBeta patura(植物名)のような農作物の原種は食の安全と農業にとって、新たな品種を作ることが出来る可能性があるので、極めて重要です。農作物の原種は収穫の増加に世界中で1,000百万ドルいじょうの貢献をしていると推定されています。113種の主要農産物のうち87種を含め、世界の食糧生産の少なくとも3分の1以上は昆虫、コウモリ、鳥を介した受粉に依存しています。この生態系サービスは年間2,000億ドルを超える価値に相当します。IUCNのレッドリストによれば16%の欧州固有の蝶に絶滅の危惧があります。重要な花粉の運び手であるコウモリ類も世界中で18%が絶滅危惧の状態です。
今月初めにバードライフは2012年版IUCN鳥類レッドリストを発表しました。この更新版によれば受粉サービスの担い手として知られるハチドリ科のうちの4種の絶滅危惧度が大きくなっており、ヒノマルテリハチドリが今回絶滅危惧Ⅱ類に加えられました。受粉の役割に加えてコウモリと鳥は昆虫の個体数を制限する助けも果たしています。これがなければ経済的に重要な農産物が損なわれることになるでしょう。
「ブラジルで開催されるリオ+20会議でスポットライトが輝く中、アマゾンでの森林伐採計画の影響についてのバードライフ・インターナショナルが分析した結果作成された2012年IUCNレッドリストでほぼ100種のアマゾンの鳥がこれまで以上に危惧度が高いカテゴリーに移動されたことは心配なことです。」とバードライフ・インターナショナルの世界調査コーディネーターのスチュアート・バッチャート博士は言っています。
外来種も食の安全、人や動物の健康と生物多様性に対して重大で急速に大きくなっている脅威の一つです。IUCNのレッドリスト・データの最新分析では外来種は両生類に対する5番目に重大な脅威であり、鳥と哺乳類にとっては3番目に大きな脅威であることを明らかにしました。気候変動と共に、外来種問題は反転させることが最も難しい問題の一つになりました。たとえばホテイアオイはアマゾン川流域を原産とする水生植物の1種ですが、アフリカにおける急速な広がりが水の供給と漁業や運輸のために内陸の水系を利用することに対する重大な脅威となっています。アフリカ全土ではその経済的影響が1億ドル相当に達していると思われます。問題の認識や防止対策、さらに早期の警告と封じ込め、抑制、駆除プログラムを含む迅速な対応システムと結びついた解決策が、外来種のマイナスの影響を減らすために地域的にも世界的スケールでも実施されなければなりません。
「グリーン経済へ移行するには、生物多様性と生態系が経済的事象の中で果たす役割を理解することが求められます。」とIUCNの生物多様性保全グループの世界理事のジェーン・スマート博士は言います。「生物多様性はグリーン経済の中の‘グリーン’の基盤です。真の持続可能な未来はリオ会議に参集したリーダーたちが生物多様性を守る一方で生計を支援しビジネスに投資の機会を提供する解決策を求めることによってのみ可能になるでしょう。」
IUCNレッドリスト最新版は中国と東南アジアの固有なヘビの10%に絶滅の危惧があることを示しています。ヘビは伝統的な薬品や抗毒素として用いられ、また食料や皮の販売による所得源です。東南アジア固有種のヘビの43%が絶滅危惧ⅠB類や絶滅危惧Ⅱ類のカテゴリーに加えられていて持続可能性のない利用により脅威を受けています。地球最大の毒蛇キングコブラは生息地の喪失と医薬品目的での過剰採取により準絶滅危惧種にリストアップされています。フロリダのエバーグレーズへの外来種として欧米で最もよく知られているビルマニシキヘビも原産地では絶滅危惧Ⅱ類にリストされており、その原因は特に中国とベトナムで食料および皮のための売買と過剰採取が主な脅威なのです。中国での保護種との指定にもかかわらず、個体数回復の様子は見られず、不法な採取が続いています。
いくつかの国では薬用動植物が人の使う薬の大部分のベースになっており、米国のような技術の発達した国においてさえ、100の処方箋薬品の半分までが野生種から作られたものです。両生類は重要な化合物がカエルの皮膚から見つかる可能性があることから新薬の研究に重要な役割を担っています。マダガスカルで最近になって発見されたカエルAnodonthyla hutchisoni,(和名未定:絶滅危惧ⅠB類)を含む両生類の41%に絶滅が危惧されています。7万種以上の植物が昔からの薬や現代の薬に使われています。今回のIUCNレッドリストの更新には食料や薬品として利用される多くの東南アジアの植物が含まれています。Tsao-ko Cardamom(ショウズク:植物名)は食用になる実が交易のために過剰採取されているために準絶滅危惧種に指定されています。幾つかの事例で過剰採取は森林伐採により環境の喪失を結びつき、その他の脅威が種を危惧種のカテゴリーにリストされる結果を招きました。ウコンの近縁種であるCurcuma candidaとCurcuma rhabdotaは共に絶滅危惧Ⅱ類に、野生のショウガの1種であるZingiber monophyllumは絶滅危惧ⅠB類にリストされています。種が提供するその他の重要なサービスには草や木による空気の質の改善とコントロールがあります。成熟した樹木の葉は1シーズンに10人の人が吸入するのと同量の酸素を作ります。それらは土をきれいにし、カーボンの溜り場になり空気を清浄化します。二枚貝軟体動物や多くの湿地植物は綺麗な水を供給するフィルターの働きを行い、カタツムリは藻の繁茂をコントロールします。アフリカでは淡水性軟体動物の42%、欧州では固有の淡水性軟体動物の68%に生息地の消滅、公害およびダムの建設により世界的な危惧が生じています。
「種の絶滅を含む生物多様性喪失を進める要因の大部分は自然における経済上の問題です。」とIUCNの種の保存委員会の議長サイモン・スチュアート博士は言います。「‘グリーン’と呼んでよい経済はそれが2010年に各国政府が合意した20の愛知ターゲットの達成を押し進める場合に限ります。