EUは生物多様性を守る道を歩んでいるか?簡単に言えばNOです。

ポルトガルのCaldeirao do CorvoのIBA
写真提供: Pedro Geraldes

2010年、生物多様性の損失と生態系サービスの劣化を招く主な要因に対して行動を行うことを欧州委員会、欧州議会およびEU加盟国のコミットメントとした、‘2020年に向けてのEU生物多様性戦略’が全ての利害関係者により採択され署名されました。

この戦略の6つの目標はそれぞれが生物多様性の損失の原因に取り組むものです。既存の法制執行の欠如、生態系の劣化と喪失、持続不能な農業、持続不能な漁業、侵略的外来種およびEUが外の地域に及ぼすエコロジカル・フットプリントです。

2015年の中間時点でバードライフは報告書‘道は半ばか?’でEUの進展度を評価しました。その結論はゴールとは程遠い、というものでした。

目標1の下で、欧州の指導者たちはEUの自然法で守られる全ての種と生息地の状況の悪化を食い止め、種の50%、生息地の100%以上を良好な保護状態にすることに同意しました。

現状はどうか?EEA報告‘EUの自然の状況’によれば8%以上の鳥、5%以上の鳥以外の種、4%以上の生息地が良好な状況にあります。幾つかの保護の成功例(例えば1977年当時よりもカオジロオタテガモは30倍になっている)にもかかわらず、種や生息地によっては以前よりも悪化しています。これには幾つかの理由がありますが、最も重要なのはナチュラ2000サイトの管理が十分な資金支援を得ておらず、現在のところ必要額の20%以下しか確保できていません。

目標2はEUが環境に良いグリーン・インフラの設置を進め少なくとも劣化した生態系の15%を復元することにより生態系とそのサービスを維持、強化することを誓約しています。

これまでのところ、ただ一つのEU加盟国が復元の優先順位を決める活動を真剣に行っているだけです。欧州委員会はこの15%復元目標をどのようにして達成するかというガイドラインを発表しておらず、その2013年‘グリーン・インフラ戦略’にも具体的な活動や資金目標がほとんど含まれていません。同戦略は主に欧州委員会が一連の課題について一層の研究を行う約束をしているだけです。けれども、フランスの‘緑と青の枠組み(Trame verte et bleue)のような、取り上げる価値のある国家計画も幾つかあります。

目標3の目的は、2020年までに共通農業政策(CAP)で生物多様性関連の対策が行われる農業地域が、農地や森林に依存する種の保護に最大限活用されなければならないということです。

けれども農地の生物多様性は減り続けており、草原の環境も依然として破壊が続いています。2014年に科学者たちは改定CAPの新しい緑化規則(greening rule)はEUの‘生物多様性戦略’に寄与しないだろうと述べています。EU加盟国も、生物多様性に優しい対策の実施におけるCAPの様々な抜け道を利用しています。その結果、EUの農地の89%はEFA(Ecological Focus Area: 環境重要地域)の要件を実施する必要がありません。それに加えて、ほとんどの加盟国はEFAにおいて特に生物多様性を強化するのに有用ではない窒素固定作物の栽培を認めています。

目標4の目的は漁獲量の持続可能性を確保するだけでなく、特に‘良好な環境状態’(水が澄み、健全で生産性の高い海)を達成するために漁業対象外の魚種と生態系に悪影響を与えることを最小化することです。

けれども‘共通漁業政策’はまだ厳格には実施されていません。2014年に加盟国は科学的な提案を超える漁獲制限量を定めました。欧州委員会はバルチック海における複数年計画に生態系を基盤とするアプローチを組み込むことにも失敗しました(欧州議会と欧州理事会はその決定作業中ですが)。2014年における欧州の海の状況に関する同委員会の評価によれば、北大西洋の魚資源の39%、地中海と黒海の魚資源の88%は依然として過剰に漁獲されており、海洋投棄物も増加しています。

目標5では侵略的外来種とその侵入経路が特定され、主要な外来種が抑制あるいは駆除され、侵入経路が新たな外来種の侵入や定着を防ぐように管理されることが求められています。

侵略的外来種に関する新しいEU規制が2015年1月に発効されました(予定よりも3年遅れ)。けれども2015年12月に採択されたEUで懸念される外来種の最初のリストには37種が含まれているだけで、これはEUの生物多様性に脅威を与えることが分かっている外来種の2~3%に過ぎません。この規制の重大な欠陥は船舶のバラスト水が考慮されていないことです。バラスト水は海洋性外来種の最も重要な侵入経路なのです。バードライフはEUが新たな外来種を提案する際の評価作業を支援するための優先すべき種のリストを作成しました。

目標6は、資源利用効率の改善や環境に悪影響を及ぼす助成制度の再編などを通じて、地球規模の生物多様性の損失へ対応においてEUの貢献度をステップアップさせることです。

2013年にバードライフは‘世界の鳥の現状’報告書を発行し、1,313種(全鳥種の13%)が絶滅危惧、更に880種が準絶滅危惧にあることを示しました。12,000箇所強のIBA(重要生息環境)のうち20%しか、公的に保護されていません。

ただし良い結果というのも出ています。EU木材規制(2013年)ではEU内において違法に伐採された木材とその製品の販売を禁じています。またEUは植物や動物の部位の違法な取引を防ぐ活動に積極的です。EU外の国での自然保護活動への資金支援も増えています。例えば、EUに関係する第3国でのプロジェクトへのEU LIFEプログラムの拡大やEUアフリカ野生生物保護戦略などがそれに当たります。

 

報告者: Sanya Khetani-Shah

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