バイオ燃料の利用は見かけほど環境に優しいものではないかも知れない
パリで開催される気候サミット(第21回国際気候変動会議: COP21 2015年11月30日~12月11日)を目前にしたニュースの見出しは押しなべて‘意欲の欠如’、‘パーセンテージ’、‘ギガトン’、‘温室効果ガス(GHG)の排出削減宣誓’ばかりが目につきます。けれどもこれらの数字や宣誓の背後にある事実にはあまり関心が寄せられていません。こうした情報を知っておくことで、フリではなく本当に大気中の温室効果ガスを減らすことにつながります。
エネルギー生産、運輸および産業行程における炭素排出とその削減についてはかなり良く分かっています。ところが土地や森林、湿地からのGHG排出や、その管理の話になるとあまり分かっていません。これらの排出の算出方法がは実に様々で、排出を削減する国の宣誓や削減努力などは常に考慮されているわけではないからです。
特にバイオ燃料(エネルギー生産に植物や樹木を利用するもの)の利用になると危険な抜け道があるのです。木材によるエネルギー生産を増やせば化石燃料の使用量を減らすことにつながるかも知れませんが、同時にそれは森林内の炭素貯蔵も減らすことを意味するのです。バイオ燃料生産の農業のために、草原や森林などの炭素が豊富に貯蔵されている場所を開墾すれば、同時に炭素を排出することになります。同じ量のエネルギーを生産するのに必要なバイオマスは化石燃料よりも多いので、炭素排出が増加するリスクすらあるのです。
これまでのところ、EUの気候変動緩和の取組はバイオ燃料に大きく依存してきました。EUの再生可能エネルギーの60%はバイオ燃料によるもので、現在のEUの排出削減量のおよそ40%を占めると見込まれています。
今後もしこれらの影響が排出削減の取り組みや国のGHG排出削減の計算に十分に考慮されない場合、排出源が変わっただけで排出削減にはつながらないリスクがあるのです。Climate Central(気候問題と取り組むNGO)の最新報告ではこの現象を‘パルプ・フィクション’-地球を暖めるヨーロッパの計算違い、と呼んでいます。
バイオ燃料に関する計算違いの全体像は把握できていませんが、懸念すべきデータがあります。バードライフ・ヨーロッパおよび他機関による研究では、2030年までのEUでの木材燃料の使用により、20年に亘り年間1億~1億5千万トンのCO2が排出されると予測されています。これは過去10年のEUによる年間GHG排出削減と同じ量なのです。天然資源保護協議会による試算によると、木材ペレット(米国南東部で生産され欧州に輸出されている)の使用により少なくとも50年間は化石燃料よりも多くの炭素を排出することになります。
穀物から作られ運輸で利用される従来のバイオ燃料では、IEEP(欧州環境政策研究所)は2020年まで毎年50~83百万トン相当が排出されると推定しました。
私たちは気候変動対策におけるバイオ燃料の役割について真剣に考え始めなければなりません。現代のバイオ燃料利用のリーダーとして、EUはこの計算違いが私たちが食い止めようとしている地球温暖化の原因そのものになってしまわないように対処する責任があります。これこそバードライフが他のNGOと共にEUに対して全てのバイオ燃料の利用における持続可能な手法を推進することを求めている理由なのです。
エネルギー生産から土地に至るまで、全ての異なる部門にEUの気候政策を把握し考慮するだけでなく、削減のはずが排出につながってしまうのを防ぐ対策が取られることが重要です。エネルギー政策(再生可能エネルギーのための各種奨励金や補助金)によりバイオ燃料産業の成長にインセンティブが与えられているので、本当にGHGを節約するバイオ燃料だけが利用されるようにこれらの政策が条件付けする必要があります。
世界がパリでの新しい気候協定の(望むらくは)合意に向けて準備を進めているところから、私たちは単に炭素排出源が変わっただけだったり、無意味な数字や宣誓を発表したりするのではなく、実際に排出を削減していることを保証する正しいルールを確実に作る必要があるのです。
報告者: Sini Eraja
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