生物多様性のゴッドファーザーにインタビュー
「生物多様性」という言葉を作ったトーマス・ラブジョイが恐竜の鳴き声、一般市民の意識、早急に人類も自然の一部であると考え始めることの必要性などについて話をしてくれました。
20年前、著名な自然保護生物学者トーマス・ラブジョイは、地球上の様々な生物だけでなく、微妙なバランスの取れた生態系が私たちに与えるサービスまでを含む言葉を思い付きました。
それ以来、彼は常にそれを守ることを中心に長く多様なキャリアを築いてきました。現在77歳の彼は、米国のジョージ・メイソン大学の環境科学・政策の教授です。バードライフに、恐竜の鳴き声、一般市民の意識、早急に人類も自然の一部であると考え始めることの必要性について、彼の考えを伝えてくれました。
「生物多様性」という用語の発明で高い評価を受けておられますが、どのようなことからこの言葉を思い付かれたのでしょうか?
面白いことに1980年にこの用語を思い付いた人間は3人いました。その誰もが新語を発明したとも、自分が最初だとも思っていませんでした。当時の私たちが科学的、環境的に考えていたことがごく自然に流れ出たのです。その後、3人のうちの1人Elliott Norseが当時を振り返って私が最初だったと言ったのです。
この言葉の背後にある目的は何でしょうか?
自然の複雑さと多様性に取り組み、特定の種の保護という昔からの形から、地球上の様々な生命を保全するという考えに移ることを真に目論んでいたのです。今日、私たちは生物多様性の危機とそれがいかに切迫しているかを話しています。
このことを人々の意識に伝える方法について、何かお考えはありますか?
特に2つのことをやるべきだと思います。一つは、私たちは全く自然から切り離されたものではなく、本当にやらなければならないのは自分たち自身を自然界に組み込み、自然は特別な場所にあり、その周りにフェンスがあって守られていると考えるのを止めることが真に必要であるということを人々に自覚させることです。また私は、人々が実際にどれほどの動植物相が毎日の生活に寄与しているかを理解する必要があるとも考えています。それがドラッグストアでもらった処方箋であるか、川の流域からの水か、大気の成分であるかに関係なく、私たちは毎秒自然界からの恵みを受けているのです。
あなたご自身で自然の中に出て、自然を体験するのは楽しいですか?
私が好きなのは、ギアナまでほとんど破壊されていない森林が続くアマゾンでキャンプをすることです。それは原始の森のようで、生きている惑星の心臓部にいるような気がします。私は人々をそこに連れてゆくのが好きで、いつも人生観を変えます。
今日の生物多様性の危機を伝える上で、最大の課題は何だとお考えですか?
危機は確かに存在します。しかし危機の詳細を述べることに時間を費やすべきではなく、人間も自然の一部であり、地球上の様々な生命を守ることが皆の基本的な利益であることを人々に理解してもらうことにもっと時間を使うべきです。
全くその通りだと思います!
それだけでありません。自然は美しく、魅惑的です。かつてE. O. Wilson(米国の昆虫学者)が言ったように、どの子供も虫に魅了される時期がありますが、彼はそこから成長しないだけです。私たちは皆そのようでなければなりません。
好きな鳥は何ですか?もしあれば教えてください。
これは本当に難しい。David Attenborough(英国の動植物学者)にとってはゴクラクチョウでしょう。私にとってはマイコドリの一種だと思います。新世界の熱帯に生息する精妙なダンスを踊る小型の果実食の鳥で、その中の一種は頭が虹色の真珠貝のような色をしています。素晴らしいです。
私たちは鳥が地球の健康度の指標だと度々言っています。最新の「世界の鳥の現状」報告書ではこれを「地球の脈を計るもの」と呼んでいます。このコンセプトについてどのようにお考えですか?
基本的には地球上の様々な鳥を救えば、少なくとも陸上では様々な生命を救うでしょう。ですから鳥は環境の全体的な健康度の重要な指標です。そして、鳥は基本的に視覚に訴える生物ですので、とっつきやすいです。ですから私たちは彼らの精妙な羽毛や合図に反応します。また人はかなり聴覚性でもあり、鳥はすべての種類の聴覚性コミュニケーションを利用します。きわめて興味深いことに、鳴管を使って歌を歌う鳥の鳴管は鳥の起源となった恐竜に遡ることが最近判明しました。ですからこれらの恐竜の一部は奇妙な、鳥に似た音を出していたのです。驚くべきことではないでしょうか?
2018年にバードライフはナショナル・ジオグラフィック誌と共同で「鳥の年」を宣言しました。その主要な要素は、自然に利益を与える小さくても意味のあるステップを取るよう人々に促すことです。生物多様性を守るために、誰でもが明日からでもできることは何でしょうか?
二つの提案をさせていただきます。最初のステップは地元の自然を訪れてみることで、次に実際に子供たちや友人を連れて、そこを見させ、彼らが自然と自分たちの生活の質のつながりを知る助けをすることです。地球は生きている惑星で、ほとんどの人が地球は物理システムとして機能しているとの幻想を持っていますが、全くそのようなことはありません。地球は物理と生物システムの混合体です。そして地球は大気の成分を制御し、水の流れを制御し、居住可能な星にする他のすべてのものを制御します。
ある一定数の種を除去したら、どれほど生態系が存続できるかについて説明する何かよい事例がありますか?生態系はいつ崩壊しますか?
生態系は小規模な崩壊なら乗り越えられるでしょう。しかし大規模な崩壊には耐えられません。侵食されてしまい、これまでできていたことがあまりできなくなってしまいます。ですから私たちが地球に対して行っているのは、地球の動植物相と人々を支える能力を侵食しているのと同じです。これは意味のないことです。
世界の様々な国と部門からの参加者が自然保護の将来について話し合うために一堂に会したアブダビでの「フライウェイ・サミット」にご参加になりましたが、将来への希望が持てましたか?
信じられないほど励みになるものでした。何カ国が参加したか分かりませんが、おそらく最終的には世界中から数十カ国が集まり、鳥の未来を大変心配していました。この会議の主題は渡り鳥でした。実際に渡り鳥が何をしているのかを考えると驚くべきことです。以前に私はワシントンからコスタリカのサンホセに飛び、2~3時間車で過ごし、翌朝を過ごす予定の場所に到着しました。次にかすみ網で捕らえた鳥を持っている大学院生と早朝6時に外出しなければなりませんでした。初日でしたが多くの渡り鳥を捕らえました。その鳥はキイロアメリカムシクイでしたが、何と私の旅よりも長距離、おそらくカナダから全行程を自力で飛んできたのです。羽毛を吹き飛ばしてこの鳥を見ると脂肪を燃焼しつくし、多分、旅の終わりにはたんぱく質も燃やしたことが分かりました。これを驚くべきことと言わなければ何が驚くべきことなのかわかりません。
もっと討議が必要な生物多様性への主な脅威は、何だとお考えですか?
私が大変心配していることの一つは私たちの生活空間内の人工化学物質です。多くのハゲワシを殺した農薬(ジクロフェナク)は数万種類の人工化学物質の一例に過ぎません。ですから私は大変懸念しており、自然に劣化する天然の分子の使用に戻ることができれば、状況は良くなると思います。
人々が態度を変えようとしない理由は、何だとお考えですか?
この問題には二つの側面があります。一つは個人にとって容易に考えられることで、その行動がどのように違いを起こすかと言うことです。けれどもそれは「ちりも積もれば山になる」ということです。もう一つは私たち自身が環境の一部であると考えることです。おそらく地球上の大多数の人がある程度はそのことに悩んでいます。その方向に考えるとき、やっていることが地球を汚染しているかどうかを考えるのさえ止めてしまいます。個人的には私はこれが社会的な主要な問題だと思います。私たちはこの地球で何が起きているかを考えず、お互いのためにもっと時間を使いたいものです。
ますます多くの人が都市に生活し、それは自然への圧力を軽減すると言う意味では良いことですが、同時に自然が不要であると言う感覚を増長させます。ですから人々が意識を持ち続けるように多くの努力が必要なのです。
報告者: Shaun Hurrell