フラミンゴに命を与える極めて有害な湖

コフラミンゴ 写真提供: © Gudkov Andrey/ Shutterstock

コフラミンゴ(Phoeniconaias mino)にとって世界で最も重要な繁殖地である北部タンザニアのナトロン湖におけるソーダ灰の採取は今も続く脅威です。しかし新たな地域コミュニティを基盤とするイニシアティブが、この「ピンクのパレード」を守る可能性があります。

ナトロン湖の水は、地球のものとは思えません。色はピンクや赤で、温度は頻繁に40℃を超え(時には60℃を超える)、その水はアルカリ性が強いため皮膚を焼き、ほとんどの動植物にとっては住みがたいものです。ところがこの地獄のような場所を、パラダイスにしている鳥が一種類だけいます。フラミンゴです。世界の総個体数の75%にあたる1.5-2.5百万羽のコフラミンゴ(準絶滅危惧種)が繁殖期には、この湖に依存しているのです。多くの渡り性フラミンゴは、アフリカ東部のリフト渓谷沿いの他の塩湖にも立ち寄りますが、ほとんどがナトロン湖に依存し、ここに一面ピンク色の群れとなり集まります。

ナトロン湖の高い塩分度とアルカリ度は、進化的に対処できているフラミンゴには影響を与えません。塩分度の高いことはより多くの食物があることを意味するのです。フラミンゴは下方向に曲がった特殊化した嘴で泥の中からSpirulinaというシアノバクテリアを濾し取ります。ナトロン湖での脅威を除けば、そこはフラミンゴにとってパーティー会場なのです。

ナトロン湖は世界最大の「ピンクのパレード」が行われる場所で、そこでは反り返った鳥の巨大な群れが毎年頭を交互に左右に動かす魅惑的でロマンティックなダンスを見ることができます。その後彼らはつがいとなり、浅い湖の中に巣を作ります。「それは自然が無償でくれた地球上で最高の鳥類学上のショーです。」とバードライフ・アフリカの政策・助言コーディネーターのKen Mwatheは述べています。

繁殖地のこのような厳しい条件下に、捕食動物も人間もフラミンゴの個体数増加には手出しができませんでした。ただしそれは2006年までのことで、その年にタタ化学工業社とタンザニア政府が進めるソーダ灰採取計画が生じたことから、ナトロン湖は世界的な注目を集めました。ソーダ灰はガラスの生産に使われるため、湖に巨大な工場が建設され大きな投資の機会と考えられました。

しかしこの事は、フラミンゴにとって脅威となりました。この開発を防ぐためにバードライフは「Think Pink(ピンクの鳥について考えよう)」キャンペーンを開始し、2009年にタタはこの計画からの撤退を余儀なくされました。残念ながらフラミンゴ保護の熱意にもかかわらず、タンザニア政府はそれでもソーダ灰採取に関心を持ち続けました。つまり、脅威は表面化していないだけです。

なぜソーダ灰採取はフラミンゴに多大な影響を与えるのでしょうか?

フラミンゴはこの独特な環境に縛られており、彼らの羽毛の色でさえも湖のSpirulinaの中の赤い光合成色素に由来するのです。塩水を除去し、ソーダ灰を抽出し、水を戻せば湖の化学組成を変え、数百万羽のフラミンゴとその雛の食物に影響を及ぼすのです。

「ナトロン湖付近には極めて限られていて、フラミンゴにとっても生命線である真水を、ソーダ灰工場では大量に使います。」とMwatheは言います。「若鳥は飲料と羽毛から塩を洗い流すために真水を求めて大きな群れで移動します。もし真水が見つからなければ彼らは乾燥して死んでしまいます。」巨大な苛性アルカリの湖の中央部の捕食者のいない塩性の場所に慣れているために、繁殖中のフラミンゴは営巣地のかく乱にきわめて脆弱です。わずか一つのかく乱でもそのシーズンの繁殖活動の放棄につながります。彼らが3年に1度、卵を1個しか生まないことを考えると、工場建設とソーダ灰採取の影響は壊滅的な影響を与えていると言えるでしょう。

フラミンゴの邪魔をせずに、ピンクのパレードを見ることができます。ビジターの一人Sir David Attenboroughは「ナトロン湖のきらめくピンクのフラミンゴの巨大な群れは世界で最も素晴らしい野生生物のアトラクションの一つ」と呼んでいます。タンザニアの最も有名なサファリの目的地からわずか数時間の範囲に、多くの人に知られていないこの隠された宝石があるのです。

ナトロン湖の鳥瞰図
写真提供: © NASA Johnson / Flickr

「私はタンザニア政府にすでにナトロン湖で進められている投資の対象について、考えてみるよう求めたいのです。そこには既に「フラミンゴ工場」観光業工場が存在するのです。」とMwatheは言います。適切に行われればエコツーリズムはナトロン湖のフラミンゴと地域コミュニティの救世主になりうるのです。「ナトロン湖におけるエコツーリズムの活用は大きな利益があります。これを進めることは人間、国際社会、タンザニア政府にとっても良いことです。」と彼は言います。いずれにせよ、天然ソーダ灰市場は、はるかに安く作れる合成ソーダ灰との間で深刻な競争が起きています。

バードライフは、できる限り政府機関を巻き込んで地元の生計の改善と観光の振興を行ってきました。たとえばエコツーリズム・センターとして21棟のマサイ族の小屋が建てられ、100人以上の女性がこれらを運営する訓練を受けました。また二つの「水利用者協会」がナトロン湖畔のPinyinyi村とOldonyosambu村に設立されました。Pinyinyi川は2か所の繁殖地に流れ込むので、真水が人とフラミンゴの双方に持続可能な形で確実に利用されることが、大切なステップとなります。

一方、鳥のモニタリングと野生生物管理のための訓練ワークショップの実施、および3つのサイト支援グループ(SSG:Ngare Sero、 Pinyinyi、Magadiniの地域コミュニティ150人で構成)の形成により、湖が確実に守られるように地域住人が活動を行っています。定期的なモニタリングが鳥の個体数、生息地の変化、保護管理対策の効率性に関する情報を提供する初期警告システムとして役に立っています。

では、私たちになにができるでしょうか??

家に居て、できることが一つあります。「私たちがもっとガラスのリサイクルに努めれば、ソーダ灰の使用はその分だけ少なくなるでしょう。地元での活動は世界的に影響を与えます。」とバードライフのフラミンゴ注意喚起フィルムを制作した「ノベリティ・プロジェクト」のTurk Pipkinは言いました。コフラミンゴの世界最重要サイトにとってこのフレーズほど真実のように響くものはありません。

ダーウィン・イニシアティブの資金を得て、全く新しいバードライフのプロジェクトは、コミュニティベースのエコツーリズムのモデルを開発することを目指しています。それは環境復元と能力構築を結び、それにより地域コミュニティがエコツーリズム・ビジネスの所有と管理において舞台の中央に立てるものです。ですからもしタンザニアにいらっしゃることがあれば、是非ピンクのパレードをご覧になり、ナトロン湖の地元のエコツーリズムをご支援ください。

 

報告者: Irene Lorenzo & Shaun Hurrell

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