ジョージアとアゼルバイジャンでのカタシロワシの目覚ましい保護活動
カタシロワシはIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に分類され、世界全体での個体数は3,500~15,000羽と推定されています。カタシロワシは低地に生息する種で、世界的に個体数が減少しており、ヨーロッパでは人為的な圧力と生息地の喪失により標高の高い場所への移動を強いられています。中央および東部ヨーロッパでは標高1,000メートルまでの森林、草原地帯、巨木のある農業地帯そして今では送電線の鉄塔上でも繁殖します。
山地での集約的林業と低地における在来種の巨木が不足していることにより、繁殖地が脅かされています。その他にも小型および中型の獲物の不足、農業による生息地の喪失、人による繁殖地のかく乱、雛を盗んだり、違法な売買、狩猟、薬害および送電線での感電死などの問題をかかえています。
隣国のジョージアとアゼルバイジャンが本種を絶滅から守るために協力しています。
ジョージア: 人による破壊に対する人による巣
ジョージアでは本種の主な繁殖地は東部地方で、藪の多い草原と農耕地が広がっています。最近の調査によれば同国に生息する繁殖ペアは40つがい以下しかおらず、営巣するのに適切な樹木がないことから巣は主に河畔林と送電線の鉄塔に限られています。
2015年11月からSABUKO(自然保護協会)が直接的な保護対策、認知度の向上や教育を通してカタシロワシの社会的価値向上のために活動しています。
このプログラムはCLP(保護リーダーシップ・プログラム)の資金と支援により始まったが、プロジェクトの開始に先立ち、ジョージアにおける本種の個体数と巣の位置を調べるために2014年、2015年に繁殖調査が行われました。バルカン諸国では本種が送電鉄塔に営巣することが分かっていたので、放棄された送電鉄塔も人工巣を設置するのに適正かどうか調査を行いました。
2015年11月にはジョージアのイリア州立大学環境研究所とMME(ハンガリーのバードライフ・パートナー)の提案を受けて、4つの人工巣を掛けることに成功しました。今年3月の第1週にはそのうちの一つの巣の近くで成鳥のペアがダイビング飛行(求愛行動または縄張り宣言)を行っているのが観察されました。
しかし、人工巣の設置だけでは生息地喪失の問題を解決することはできません。そのため、別の活動も行われています。例えば将来カタシロワシが繁殖に利用する可能性のある非保護区内にあるまだ若い森林の小区画や、現在営巣が確認されている非保護区内の成熟林の小区画のアセスメント評価と保全も行われています。
SABUKOはMMEとVashlovani自然保護区事務局の支援を受けてカタシロワシの若鳥の人工衛星追跡調査も行っています。地元の人たちの意識向上のためにSABUKOはカタシロワシ監視員の訓練、学校での講演、地方自治体の代表、農民、土地所有者との会合なども合わせて行っています。
アゼルバイジャン: 調査は自然保護の最善の友
アゼルバイジャンはカタシロワシや他の猛禽類にとって繁殖と採餌の場所として重要です。しかし繁殖数や越冬数に関する正確なデータを得る総合的な調査が行われていません。この状況は2006年にカタシロワシの‘南部コーカサス行動計画’の採用により変わりました。この計画には本種の繁殖個体数の基盤となるアセスメント調査が優先することが明示されています。
2007年4月にアゼルバイジャン鳥類学会(同国のバードライフパートナー)は同国北西部でカタシロワシの包括的調査を開始しました。この調査によりアゼルバイジャンでの本種に関する最初で最も詳細にわたるデータを得ることができました。9日間で彼らは6,000平方キロメートル(アゼルバイジャンの領土の7%に相当し、カタシロワシの生息可能地域の25%)を調査し、25対の繁殖ペアと5つの新たななわばりを発見しました。その結果から、繁殖ペア数は35~60ペアと推定されました。
この結果によりアゼルバイジャンに生息するカタシロワシの個体数は世界のトップ・スリーに入るものと思われ、それ故、残りの生息地の分布域の解明を含むさらなる調査の必要性が示されました。この調査はカタシロワシの現状と分布状況を明らかにするだけでなく、この分布モデルは、本種の将来の保護活動や計画、更にはIBA(重要生息環境)の指定に向けての指針になるでしょう。
この行動計画では本種の個体数を増加、安定させ、本種に関する知見を高めるための活動リストを作成しました。それには本種の生存を脅かす要因を人々に知ってもらうためのキャンペーン、鳥への脅威にならない送電鉄塔の設置場所に関する電力会社との話し合い、人の活動によって利用できなくなった巣の代替巣の提供、違法な森林伐採に対する法律の改善などが含まれます。
このように、カタシロワシ・プロジェクトは本種についてより良く知る機会を人々に与え、メディア、地元の利害関係者、インフラ企業や政府機関を巻き込んでカタシロワシの保護活動を後押ししています。
報告者: Guille Mayor and Elchin Sultanov
原文はこちら