「水鳥の楽園」が世界遺産の候補に

ヘラシギ(冬羽) 写真提供: © Shutterstock

中国の渤海湾と黄海沿岸の14地域が、世界遺産の暫定リストに加えられました。これは壮大な旅を完遂するために、これらの地域の豊かな資源に依存する絶滅の恐れがあるヘラシギなどの渡り鳥にとって、素晴らしいニュースになるでしょう。

何故ヘラシギには目立つへら状の嘴―絶滅危惧ⅠA類のシギの苦境を世界的に有名にした、あの特徴的な付属器官があるのでしょうか?

その答えは、実は誰も正確には知らないのです(世界のヘラシギの個体数が1,000羽を下回っている現在、野外でその習性をしっかり観察する機会があまりないこともその原因です)。生物学的には関係ないが、嘴の形状がヘラシギと同じように見えるヘラサギが、水中で小さな無脊椎動物を濾し取るために、ふるいの様に平たい嘴を左右に振るのと同じ行動だと思うかもしれません。しかしこれまで、ヘラシギによるこのような行動は観察されたことがありません。

多くのシギ・チドリ類と同様、ヘラシギは特別な形状の嘴を、採餌の時シャベルのように泥を掘り返して中に隠れているカニ、ゴカイやその他の無脊椎動物を見つけているという説が有力です。

採餌中のヘラシギ
写真提供: (c) Kajornyot Wildlife Photography

しかし、このように特殊な採餌習性には、長い旅(ヘラシギの、シベリアと南アジアの間の年に2回の壮大な渡りなど)の途中で栄養補給のため立ち寄れる好みを満たす「レストラン」は限られているという不都合な点もあります。

アジアのシギ・チドリ類にとって、黄海よりも広大で在庫の豊富なレストランは、他にはありません。中国と朝鮮半島に囲まれているこの広大な海には、地球上最大の潮間帯湿地があり、広大な干潟、砂状フラットやその他の沿岸環境は、どこよりも早く世界中から水鳥を招き寄せます。

一例として、オオソリハシシギ(準絶滅危惧種)の多くの個体群がこのエリアを、オーストラリアと北極ロシア、アラスカの間の長距離飛行中に唯一の中継地として利用しています。今この時も、1万羽以上のオオソリハシシギが中国と北朝鮮の国境を流れる鴨緑江の黄海入り江の一つに戻って来ています。

また、世界のコオバシギ(準絶滅危惧種)の亜種の60%近くが、北京に近い黄海エリアの渤海湾のラン南県の湿地に立ち寄ります。更に、渡り性水鳥にとって、黄海地域は規模、数、種の多様性あるいは世界的に絶滅が危惧される種の比率など、どんな基準でみても、世界で最も重要なエリアの一つなのです。

しかし、この重要な生息地の将来は、現在安全とは程遠い状態です。人にもシギ・チドリ類にも人気のある黄海地域は同時に、世界で最も人口の多い沿岸地域で、推定2億人が居住しており、人口は増加中です。このように稠密な人口に対応する開発は、野鳥の重要な生息地や採餌地の消失を招き、東アジア・オーストラリア・フライウェイを訪れる27種の水鳥が絶滅の危惧に晒されています。

オオソリハシシギは長い嘴を使って採餌することが分かっている。
写真提供: © Andreas Trepte

この素晴らしい自然資源をずっと保全していくために、中国は前述のラン南県の湿地を含む黄海の自国領に沿った14カ所の沿岸地域を世界遺産の暫定的なリストに加えました。これは黄海地域を候補地として公式に指名するプロセスの第一歩で、これにより国際的な保全の最高の形をもたらし、これらの湿地に依存するヘラシギのような極めて危惧される鳥の保護に大きく貢献します。

一方、韓国もこの地域の重要な湿地を世界遺産にするために注力しており、ヘラシギの単一サイトとしては世界で最も重要なYubu島を含む沿岸部の幾つかの場所を、間もなく指名する予定です。同時に、この世界遺産候補地のネットワークは‘シギ・チドリ類の楽園’になる可能性があります。

「私たちのパートナーと協力者を代表して、適切な時期にこれらの非常に重要なサイトを世界遺産の暫定リストに載せるために尽力下さった中国政府に対し、感謝の意を表したいと思います。」と、渡り鳥の保護のために活動するバードライフを含む35の政府とNGOをまとめたイニシアティブである東アジア・オーストラリア・フライウェイ・パートナシップ(EAAFP)の事務総長のSpike Millington氏は述べました。

「EAAFPのパートナーからの支援、特にIUCN、バードライフ、極地性動植物保全(CAFF)、「沿岸性湿地青写真プロジェクト」を通じたポールソン研究所などからの支援は、黄海の潮間帯の保全を進める上で役に立ち、このリストの完成につながります。」とMillington氏は述べています。

それはここ数十年にわたる黄海の湿地を荒廃させた破壊と劣化を食い止める、あるいは逆転させることが可能であるという希望をもたらす大きな励ましとなる進展です。これらのサイトの未来が確保されるまでには、まだ道のりは長いです。しかし、まだ暫定リストに掲載されていない多くの重要なサイトがあります。例えば中国北部の浜海新区には、世界のゴビズキンカモメ(絶滅危惧Ⅱ類)個体がみな訪れる場所です。バードライフは、これらの重要なサイトが将来適切に認識され保全されるよう支援活動を続けます。

ヘラシギが旅の途中で採餌するための十分な干潟を確保するための支援方法については、キャンペーンのホームページをご覧になってください。

日本語の支援ページはこちら(Yahoo!ネット募金「ヘラシギ」が姿を消す前に絶滅が危惧される渡り鳥を守ろう)

 

報告者: Alex Dale

 

  1. TOP
  2. 世界のニュース
  3. 「水鳥の楽園」が世界遺産の候補に