保護活動のコスト:自然を守るためには年間800億米ドルが必要

主たる生息地がカンボジアに限られている絶滅危惧ⅠA類のアカアシトキ。
絶滅を防ぐには毎年75万米ドル(約8千万円)の投資が必要と推定されているが、現在はその10%しか得られていない。
写真提供:Jonathan C Eames

世界の政府は2020年までに絶滅を防ぎ、重要な自然環境を守ることを約束しました。しかし、これまでのところ、これらの目標を達成させるための財務的費用に関してはほとんど明らかになっていません。最新の研究によれば、すべての既知の絶滅危惧種の絶滅リスクを減らすための推定年間40億米ドルに加えて、さらに年間760億米ドルが、世界的に保護が重要な陸上のサイトを保全し、効果的に管理するには必要であるとの厳しい数値が示されています。このことは自然保護には投資額を大幅に増加することが緊急に必要であることを示していますが、一方、この必要な合計額は自然が与えてくれる経済上の利益と比較すれば僅かなものなのです。

生物多様性の喪失率を減少させるとした前回の国際公約が失敗に終わったことを受けて、すべてのCBD(生物多様性条約)締約国は、2010年に、愛知ターゲットを含む新戦略計画を2020年までに達成させることを採択しました。しかし、政治的な意思の欠如と必要資金額に関する情報が不十分なために、資金問題についての交渉はまだ解決されていません。CBD締約国会議がインドのハイデラバードで現在開催されていることから、バードライフ・インターナショナルとRSPB(英国のパートナー)の科学者による国際チームが、今最も急を要する愛知ターゲットの中の2項目を達成するための財政コストに関する初めての信頼できる情報を作成しました。2項目とは絶滅危惧種を守り、保護のために重要なサイトを保全することです。

科学雑誌‘サイエンス’に発表された論文‘二つの世界の生物多様性保全ターゲット達成のための財政コスト: 現在の支出額と未達の必要額’で、彼らはすべての自然を保全する目標を達成するためのコスト見積もりに、あらゆる生物の中で最もよく知られている鳥に関するデータを使っています。すべての世界的絶滅危惧鳥類の絶滅リスクを減らすためのコストは今後の10年間に毎年8億8千万~12億3千万米ドル(約700億~980億円)と推定されています。その他の動植物の関連コストのデータを使って、国際チームは人が原因の絶滅を防ぎ、世界的に絶滅が危惧されていることが分かっている動植物の状況を改善するには年間34億1千万~47億6千万米ドル(約2,730億~3,810億円)が必要であると見積もっています。

フィリピンの固有種フィリピンワシが生き残るには広大な原生林が必要です。

写真提供:Nigel Voaden: worldsrarestbirds.com

サイト保全のコストを算定するために、国際チームは鳥にとって世界的に保全が重要な陸上のサイト(バードライフが特定した11,731箇所のIBA(IBAは重要生息環境)を調べました。IBAは生物多様性(鳥に限定せず)のために重要なサイトの組織的に特定された世界最大のネットウォークを表すものですが、既存の保護地域ではその28%が完全にカバーされているだけです。これら既存の保護地域を効果的に管理するためには毎年72億米ドル(約5,760億円)が掛かるでしょう。残りのIBAの保全範囲を拡大し、効果的に管理するのには合計額が年間578億米ドル(約4兆6240億円)増加します。これらの保護地域の追加により保護地域としてカバーされる世界の土地面積はちょうど17%に増え、これは愛知ターゲットの中で世界中の政府が誓約した値です。

世界的に重要なサイトは哺乳類、両生類、一部の爬虫類、魚類、植物および無脊椎動物についても多くの国で組織的に特定されました。これらのサイトのうちの71%はIBAとして既に適切とされています。このような関係が世界中で適用できると仮定すると、自然のための世界的なサイトのネットワークを保全し効率的に管理するためのコストは毎年761億米ドル(約6兆円)と見積もられます。

「私たちが明らかにした不足額は生物多様性保全のための投資を大幅に拡大することが緊急に必要であることを強調するものです。」と論文の主筆者であるバードライフとRSPBの環境経済学者ドナル・マッカーシーは言いました。「けれども、この総額は何もしない場合の同様なコストと比べればとても小さなものです。総額は2兆~6.6兆米ドル(約160~530兆円)の範囲と推定される毎年失われつつある生態系サービスの喪失純額の1~4%に過ぎません。率直に言えば、必要額は世界の消費者がソフトドリンクに使う年間額の20%以下なのです。」

“The total sums may sound large, but these are investments, not bills – saving nature makes economic sense because of the payback in terms of services and benefits that people receive in return, from mitigating climate change to pollinating crops”, said Dr Stuart Butchart, BirdLife International’s Global Research Coordinator.

「この合計額は大きいように聞こえるかもしれませんが、これは投資であって、勘定書ではありません。自然を守ることは、気候変動の緩和や作物の受粉などによって人々が得るサービスや利益の形での払い戻しですので、経済的な意義をもたらすのです。」とバードライフの地球調査コーディネーターのスチュアート・バッチャート博士は言いました。

‘ケンブリッジ・コンサベーション・イニシアティブの保護活動・アルカディア(理想郷)のための協力基金’の支援によるこの分析は、2020年までの生物多様性のためのCBD戦略計画実施に必要な資金に関する政府間討議を解決する健全な基盤を提供します。特別なチャレンジ課題は、富裕国でのより高い活用可能な資源と、生物多様性は高いが財政的に貧困な国でのより高い保護の必要性との間のミスマッチにどのように取り組むかということでしょう。

「保護資金の危機が進行している現在、これを解決することが急務です。保護活動への投資が遅れれば遅れるほど、コストは増加し、ターゲットを達成するのが益々難しくなるでしょう。」とバッチャート博士は付言しました。

報告者:Martin Fowlie

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