トヨタ環境活動助成プログラム(2017~2018): タイ パーク・タレー沿岸域における絶滅危惧種ヘラシギの保護とバードツーリズムの推進

バードライフ・インターナショナル東京は、2016年度トヨタ環境活動助成プログラムの支援を受けて、タイのパートナー団体であるBird Conservation Society of Thailand (BCST)と共同で、絶滅危惧種のヘラシギ等の渡り鳥の保全を進める活動を実施しました。

背景

バンコクから南西に100kmほどの場所にあるタイ湾西岸のパーク・タレーには、ヘラシギをはじめとする世界的な絶滅危惧種が多数飛来します。バードライフ・インターナショナルのIBA(重要生息環境)やアジア・オーストラリア地域フライウェイ(EAAFP)にも指定されており、生物多様性に重要な地域として世界的にも認識されており、世界各地からバードウォッチャーが多数訪れる場所となっています。

この地域では約800年前から干潟を生かした伝統的な製塩が行われており、塩田は渡り鳥にとっても重要な越冬地や中継地となっています。しかし、養殖等のために土地利用の転換が急速に進んでいるほか、塩田に無断で踏み入るバードウォッチャーと住民との間で軋轢が生じるなど、この重要な環境の長期的な存続が危ぶまれていました。そのためこの地域では、こうした渡り鳥の生息環境を維持・改善すると同時に、住民に問題とならないようなバードウォッチングの仕組みを導入することが重要でした。

活動地域

目的

本プロジェクトでは、荒廃した塩田を渡り鳥の生息環境として管理し、さらにバードツーリズムの場として整備するとともに地域住民への啓蒙活動を行うことで、渡り鳥の生息環境の改善及び地域住民のバードツーリズムへの理解向上を図り、将来的には多くの人々が訪れるエコツーリズムサイトとなることを目的としました。

主な活動と成果

タイの海洋沿岸資源局との交渉の末、20haの荒廃した塩田を渡り鳥の生息環境として借り上げることができました。プロジェクト計画時には6haを予定していたため、2.5倍の土地を確保することができたことになります。

© BCST

活動地

借り入れた活動地では、清掃や必要な環境整備を行った上で、新鮮な海水を取り入れ、常に水交換がされるように現地の住民と協力して管理しました。その結果、管理を開始する前の2017年3月には渡り鳥の記録数はわずか数十羽だったものが、管理を開始した後の9月には1,000羽を超えるほどになりました。

プロジェクト前(左)と後の様子

ヘラシギも例外ではなく、プロジェクト前には活動地では記録がありませんでしたが、2018年はじめには一度に5羽が確認されました。

© Ayuwat Jearwattanakanok

1枚の写真に4羽のヘラシギが収まるのは大変貴重

さらにヘラシギだけでなく、カラフトアオアシシギ、オバシギ、ホウロクシギ(以上IUCN 絶滅危惧IB類)、カラシラサギ(同II類)など他の絶滅危惧種をはじめ多くの渡り鳥が周囲の塩田よりも活動地を好んで利用するようになったのです。このことは、本プロジェクトにより、活動地が渡り鳥の生息環境として改善が着実に進んでいることを示唆します。

また地域住民からなる地域活動グループが結成され、活動地の環境維持活動や訪れたバードウォッチャーの案内を行うなど、地域住民と連携した取り組みを進める素地が作られました。以前は無断で塩田に入り込むバードウォッチャーに不満を持つ住民もいましたが、そうした感情は減ってきており、地域がバードウォッチング・サイトとして有名になることで、経済的メリットだけでなく、住民の誇りにもつながっていることがわかりました。今後も活動を続けていくことで、地域住民と鳥類が共生する社会の実現に向けて一歩ずつ進めていく予定です。

 

塩田で働く製塩農家

 

塩の山と塩田

 

プロジェクトのリーフレット

このプロジェクトは、「トヨタ環境活動助成プログラム」の助成を受け活動しました。