トヨタ環境活動助成プログラム(2011): ベトナム ラタンの植林による森林保全と貧困削減
プロジェクトの背景:ベトナムの森林破壊の現状と貧困問題
ベトナムの森林破壊は深刻な状況にあり、植林も行われているものの、ほとんどがパルプの原料となるアカシアの植林で、原材料生産の場と化しています。このような単一植林は生態系を損なう上、地元住民への経済的なメリットはほとんどありません。また森林資源に依存してきた地域の人々は、住処をなくし、生計を維持することも困難になっています。特に、本プロジェクトの活動地のベトナム中部は、低地性の森林が広がり、固有種や希少種が多数生息していますが、木材、非木材資源の過剰収集、狩猟、他地域からの流入による人口急増、農地不足、環境に対する知識不足などで、森は減少の一途を辿っています。地元行政でも自然資源の持続的な利用に関する知識が圧倒的に不足しており、地域の貧困率は40%に達しています。このような森林と生態系を守るには、そこに生息する生き物だけではなく、人々の暮らしも考える必要があります。地域住民が持続的に資源を利用し、暮らしが成り立って始めて森林生態系は守られるのです。
プロジェクト概要
本プロジェクトは、アグロフォレストリーや非木材資源のマーケティングを組み合わせた住民支援により、地域の人々が森を持続的に利用しながら収入を向上させ、生態系を維持することを目的としています。住民が森林資源を利用し続ける、「里山的な暮らし」の成功モデルを示すことが期待されています。
プロジェクト対象地: クアンチ州ダクロン郡の地域コミュニティ(Van Kieu/ La To / Kreng村)
約450世帯(主に少数民族)
プロジェクト期間: 2012年1月より2013年6月末まで
プロジェクトサイト
先住民族の村落
La To村の学校
プロジェクトの目的
本プロジェクトでは、森林保全計画の策定と植林活動により、森林生態系の復元と持続的な暮らしのモデル事業の確立を目指し、以下の活動を推進します。
- (1) 地元政府、林業者、有力者など地域の指導層が本事業への理解を深める
- (2) 昔からこの地域に暮らしている先住民が、「利用権」として、90haの森の恵みを10年程度、優先的に使える権利を確保する
- (3) 2つのコミュニティから450世帯が本プロジェクトに参加する
- (4) 少なくとも30世帯がラタンの植林やマーケティング活動に参加し、収入を得る
- (5) この地域に生息する絶滅危惧種コサンケイ(Edwards’s Pheasant)の保護につながる
活動のシンボル: 絶滅危惧種コサンケイ
上記の活動目標を達成し、近隣の森林地域の人々のモデルとなる「森林回復と持続可能な利用」の手法を確立し、近隣地域の人々にも具体的な成功例をつくり、将来の普及に向けて取り組んでいます。
活動の成果
- プロジェクトの説明と森林生態系を回復させるための研修会を実施し、180世帯の代表者が参加した。また、森林資源の有効活用、ラタンの植林と持続的な管理に関する研修などを実施し、述べ250名が参加した。
- 地域住民のための保護と利用ゾーン160haが認められ、10年間の森林利用権を確保した。行政、地主、地域住民の間で森林の保全と利用の話合いを実施し、覚書の中に、地域住民の権利と義務が明記された。これまでは地域住民への便益は考慮されていなかったが、今後は収入が担保されることになった。
- 上記の利用権を認められた森林エリア内で、38世帯が32hにラタンを植林した。
- 地域住民の森林保全グループ(10-15名の2グループ)を編成し、グループがモニタリングを開始した。
- プロジェクトの総括として、ワークショップを実施、地元自治体、森林局、ステークホルダー等、約50名が参加し、影響や課題、ベストプラクティスを洗い出し、今後の展開に向け取りまとめた。
- プロジェクトの普及にあたり、ドキュメンタリーを作成した。ドキュメンタリーは、クアンチ省とダクロン郡の地方放送で放映された。また、プロジェクトのニュースが、新聞各紙やウェブサイトなどで紹介された。
ベトナムで、プロジェクトの紹介用に作成されたドキュメンタリー
先住民や少数民族は森林資源への依存度が高いため、当活動がこの層に対する貧困対策モデルとなることが期待されています。2014年1月からは、2013年度の「トヨタ環境活動助成プログラム」の支援を受け、同省のファンホア郡で、プロジェクトを展開することが決まりました。
ラタンの植林
森林資源の利用権を認める証書を受けたLa To村の村長
森林保全の研修会
メディアの取材を受ける地域の人
地域住民が利用できる森林エリア160ha
このプロジェクトは、「トヨタ環境活動助成プログラム」の助成を受け活動しました。