最新の調査でハゲワシの採餌による死亡数が致死性薬物の使用禁止以後3分の1減ったことが判明

ベンガルハゲワシが初めて回復の兆候を見せています。 写真提供:Jonathan C Eames

“王立協会の発行する「フィロソフィ化ル・トランザクション」”誌に発表された環境内における薬品の危険と影響に関する新しい研究によれば、インドでのジクロフェナクの汚染によるハゲワシの死亡数が2005年から2009年の間に3分の1以上も減りました。

インドで2006年にハゲワシに有害な獣医薬の使用が禁止されて以後、このような薬品が検出される家畜の死体は半分に減りました。しかし、家畜の処方にジクロフェナクの使用が違法とされたにもかかわらず、死体の6%は未だにジクロフェナクで汚染されていると専門家は言っています。

科学者はインド全土で2005年と2009年の間に野外に捨てられたウシの死体(注: インドなど南アジアの国では宗教上の理由などにより牛を食用とせず、死んだ場合は野外に放置し、従って、ハゲワシの食糧になる)を数千体サンプルとして調べました。その結果彼らは2009年にはジクロフェナクへの陽性反応が出た死体の比率は2005年に比べて51%低かったことを発見しました。このデータとハゲワシの食性に関するデータを合わせて、科学者はこれは採餌当たりのハゲワシの死亡数が35%少なくなったことに相当すると計算をしました。

10年前には家畜の処方にジクロフェナクが広範囲に使用されていたこと、また家畜の死体がハゲワシの主な食物源であることから、南アジアに生息する3種のハゲワシは‘準絶滅危惧種’の状態にありました。そのうちの1種ベンガルハゲワシは僅か15年の間に99.9%以上減少したのです。しかしハゲワシの個体数は今、回復の最初の兆候を示しています。彼らの苦境にとって大きな転換点になったのは2006年から2009年の間にインド、パキスタン、ネパール、バングラデシュの政府が相次いで獣医薬としてのジクロフェナク使用を禁止したことです。

バードライフの英国のパートナーRSPBの自然保護科学者で今回の研究の共同著者Toby Galligan博士は「私たちの研究結果には良いニュースと悪いニュースがあります。良いニュースはインドでの獣医薬用のジクロフェナクの使用が大幅に減ったこと、悪いニュースはまだそれが完全に止まってはいないことです。」と言いました。

「これはインドの製薬会社が人の治療用のジクロフェナクを家畜用にも使える大きな瓶に入れて作り続けており(注: ジクロフェナクそのものは日本でも消炎鎮痛剤として普及している)、獣医や家畜所有者の一部にはハゲワシに害のない代替薬メロキシカムがあるにもかかわらず依然としてジクロフェナクを使っています。」

「家畜の死体の6%はジクロフェナクに汚染されており、これは1回の採餌当たり、200羽に1羽のハゲワシがジクロフェナクの毒により死ぬことに相当します。この数字はそれ程のことではないように聞こえるかも知れませんが、採餌ごとに200羽に3羽のハゲワシが死ねばハゲワシの破局的な減少につながるには十分な数であることが分かっています。」

この研究ではジクロフェナクを大きな容器に入れて販売することを禁止する場合を強調しています。これにより人のヘルスケアには影響を与えずに、ジクロフェナクの家畜への投与をより高価で扱いにくいものにします。ハゲワシ保護活動家はこの追加の禁止処置が人用のジクロフェナクを家畜に使うという違法な使用を止めるものと考えています。

Galligan博士は続けて「私たちは長い道のりをここまで辿り着き、かつてない最大の保護活動の成功事例に向かっています。南アジア全体でジクロフェナクを3ミリリットル以上の容器に入れて販売することを追加して禁止すればハゲワシの個体数回復に大きく寄与するでしょう。」

南アジアで起こしたジクロフェナクの悪影響の証拠が十分にあるにもかかわらず、去年イタリアとスペインで獣医薬用ジクロフェナクの製造・販売が承認され、以後欧州各国に流通しています。スペインとイタリアのバードライフ・パートナーを始めとする自然保護団体の連合が、欧州連合(EU)代表や一般の人たちの支援を受けて、この決定を覆すためのキャンペーンを行っています。これに応えて欧州委員会は欧州医薬品庁(EMA)に対して欧州に生息する腐食性猛禽類に対するジクロフェナクの危険性を査定するよう要求しました。この結果は11月末に示される予定です。

‘保護生物学誌(Journal Conservation Biology)’のオンライン版に先週掲載された別の記事には、スペイン・英国・米国のチームにより、スペインでのシロエリハゲワシの死体に薬品フルニキシンの残留と腎不全があったことが記されています。フルニキシンはジクロフェナクやメロキシカムと同様の非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)です。これはハゲワシへのフルニキシンの初めての薬害例で、欧州のハゲワシがNSAIDに触れた初めてのケースです。

Galligan博士は続けて言いました。「ヨーロッパ、特にスペインはハゲワシやワシ・タカ類の重要な個体群の生息地で、そこが今食物のジクロフェナク汚染により個体数減少の危機にあります。私たちの活動への反対者はヨーロッパと南アジアでは事情が違うと主張していますが、そうではありません。両地域において死体投棄場所か野外かの違いはあってもハゲワシには家畜の死体が餌になるのです。私たちの仲間が示したように両地域でハゲワシはNSAIDに晒されているのです。欧州委員会はこの問題を認識し、獣医薬用ジクロフェナクやハゲワシの毒になる他のNSAIDの欧州大陸全土での禁止処置を取るべきです。」

(報告者:マーチン・フォーリー)

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