再自然化(Rewilding)―自然は最善の方法を知っている

ミルリンガーワールト(オランダ)コニック(原始的な馬の一種) 写真提供: © Ark Nature - Rewilding Europe

今回は、生物学で最も権威のある雑誌の一つで新たに発表された、今後のスタンダードとなり得る研究を参考に、「再自然化」の科学を詳しく見ていきます。

 

失われた種を復活させ、自然景観を広範囲にを復元する – 再自然化の概念は、「復元可能な地球」として自然愛好家の新たな希望となっています。欧州全域で、この概念に則った自然復元プロジェクトが着々と進行しています。自然が危険な状態にある今、再自然化が若い保護活動家の共感を得ていることには何の不思議もありません。時代が新たな考えを必要としているのです。

 

「河畔の植生が回復し、イノシシやカワウソ、オジロワシが戻ってきました」

再自然化とは、人により劣化した自然の営みを復元することを目的とした取り組みを指します。オランダのミルリンガーワールト湿地では、20世紀に行われた集約農業と堤防の建設によって河畔林や砂丘が破壊され、カワウソ、アナグマ、イノシシ、オジロワシ、ナベコウなどの在来種に深刻な打撃を与えました。しかし1990年に700ヘクタールのエリアが再自然化地域に転換されました。農業は中止され、自然の洪水が発生するよう堤防は取り壊され、泥が除去されて古い川の流路と砂地が姿を表しました。コニック(原始的な馬の一種)やギャロウェイ(最古の肉牛の一種)が放牧され自由に草を食み、ビーバーなどの一度は姿を消していた種が再導入されました。今では自然と人に水質改善や洪水緩和といった恩恵をもたらしています。

ミルリンガーワールト湿地(オランダ)
写真提供: © Ark Nature ‘Rewilding Europe’

救いの手

再自然化は、「自然は最善の方法を知っている」という哲学に則って取り組むという点で、他の環境復元活動とは異なっています。自然は、その営みを周辺の要素に合わせて見事に適応させるという点で驚異そのものです。再自然化では、このことを考慮して出来る限り人の手を加えないことを方針としています。

とはいえ再自然化を進める人たちが自然に救いの手を差し伸べることに反対しているわけではありません。再自然化の主導団体の一つRewilding Euopeは、人が与えた環境へのダメージの中には、人の手で改善するしか選択肢がない場合もあることを認めています。たとえば、広範囲の森林の自然な再生を促す工事を行ったり、川が自由に流れるようにダムを撤去したり、種を再導入し、野生生物の個体数管理を止めたりといったことです。そのあと、一旦自然が自ら復元していける状況が整ったことを確認できたら、身を引いて、自然が自らの営みで変化していくのを見守ります。これが再自然化の手法です。

ミルリンガーワールト湿地は、この「救いの手」によって消滅の危機を脱することができました。河畔の植生が復活し、イノシシ、カワウソ、オジロワシの個体群が増加に転じ、再導入されたビーバーが10以上の家族を作り暮らしています。洪水防止のための砂の除去など一部の復元活動は今しばらく続けられますが、多くの活動がすでに完了し、豊かなミルリンガーワールト湿地はより自然な未来への道を順調に進んでいます。

 

再自然化の科学

再自然化プロジェクトの進むのに伴い、これを裏付けする科学が重要となります。それも先日、世界最古の科学機関である英国王立協会の著名な科学雑誌「Philosophical Transactions B」において再自然化の特別号が発行されたことで大きな後ろ盾を得ることとなりました。「再自然化は単に自然を守るというものではありません。人の活動によって劣化した自然環境の健全な複雑さを復元する取り組みなのです。その原則は高度に都市化が進んだサイトから隔絶した山地まで、劣化の程度の異なる様々な地域に適用することができます。しかしこれまでは、再自然化の目標達成度を定量評価する適切な枠組みがありませんでした。」とドイツ統合生物多様性研究センター(iDiv)とマルティン・ルター大学ハレ・ヴィッテンベルク校のAurora Torres博士は述べています。

Torres博士は、この特別号に掲載された、再自然化を評価するための基準を提唱した「Measuring Rewilding Progress(再自然化の進捗度の測定)」という記事の第一筆者です。研究者たちは、農業や林業、野生生物への給餌などの活動の縮小、狩猟や釣りの制限、ダムの撤去、森林の倒木をそのまま残しておくことなど、再自然化の活動によりもたらされた生態系の変化を測定するための指標を考案しました。

この評価の枠組みは、生態系や地理、時間スケールが大きく異なる様々な再自然化プロジェクトに適用可能なことが確かめられています。例えば、オオアリクイ、パンパスジカ、バク(1970年以後見られない)などの象徴的な種が21世紀に再導入されたアルゼンチンのイベラ内陸湿地や、1914年に自然エリアに指定されてからシャモア(高山に生息するウシ科動物)やイヌワシの個体数が回復した西ラエティア・アルプスのスイスの国立公園などの取り組みです。この評価の枠組みは、再自然化プロジェクトの効果を最大化し、確かな意思決定を促し、再自然化における科学と実践の結びつきを強化するのに役立つでしょう。

今回、英国王立協会は絶好のタイミングで再自然化の科学をとりあげてくれました。なぜなら現在、バードライフ・ヨーロッパ、WWF、EEBなどの主要な環境NGOがリワイルディング・ヨーロッパやiDivとパートナーシップを組み、欧州におけるポスト2020の生物多様性戦略に再自然化の原則が取り入れられるよう尽力しているからです。私たちは、再自然化の原則を促進し、再自然化がいかに欧州全体の生物多様性と生態系の復元に寄与するかを示すことで、EUの自然復元の取り組みを強化し、欧州に広がる生態系ネットワークを形成することです。再自然化は、EUに進むべき道を伝えてくれる「救いの手」なのかもしれません。

 

報告者: Gui-Xi Young

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