IBAを用いた南北アメリカでのエコツーリズム開発

バハマのアンドロス島 写真提供: © Shutterstock

米国、バハマ諸島、ベリーズおよびパラグアイのバードライフ・パートナーが、貧困地域とIBA(重要生息環境)が重なる地域でのエコツーリズムを促進するために協力しています。人々と自然の両方を豊かにすることを目指した先駆的なプロジェクトです。

2016年10月、ハリケーン「マシュー」がアンドロス島を襲い、ウッズ一家が居間で身を寄せ合っている最中、家の屋根が吹き飛ばされました。誰も怪我はしませんでしたが、一家の前庭に残された家具やその他のガラクタの山が、このバハマの島の住民がいかに脆弱かを表しています。

このような脆弱性は経済状況にも及びます。バハマを訪れる多くの観光客のほとんどは、アンドロス島にはやって来ません。アンドロス島やその他の開発が進んでいない島々では失業率が高く、貧困は広がり、意欲的で有能な若者はより良い機会を求めて他の場所に出て行くのが常です。

バハマムクドリモドキ
写真提供: (via Wikicommons)

けれどもこのハリケーンにもかかわらず、ウッズ一家は昨年はこれまでで最も良い年の一つだったと言っています。彼ら夫婦は「バードツーリズム・イニシアティブ」による訓練や他の支援を得てバードガイド(野鳥案内)業を始めたのです。このイニシアティブは、ラテンアメリカとカリブ海諸国で野生生物と生態系を守るために経済的な機会創出と野生生物や生態系の保全の両方を目指した革新的プログラムです。

「私たちは、 “どうすればコミュニティの人々に生態系は保全する価値のあるものだという考えを理解してもらい、その代わりに生態系から経済的恩恵を得させることができるか?”ということを考え続けてきました。」とオーデュボン協会(米国のパートナー)のカリブ地域理事で国際提携プログラムの副理事のMatthew Jefferyは言いました。

Jefferyのチームは、IBA(重要生息環境)や重要な保護区の地図に貧困地の地図を重ねることにより、バードウォッチャーを呼び込める可能性のある地域を選びました。まず試験的に、バハマ、ベリーズ、パラグアイおよびグアテマラの2地区の支援を行うことにしました。

このプログラムは米州開発銀行の「多数国間投資資金(MIF)」とオーデュボン協会の資金支援を受け、地元のバードライフ・パートナーのバハマ・ナショナル・トラスト、ベリーゼ・オーデュボン協会、グイラ・パラグアイと共同で実施されました。さらにグアテマラでは地元保全グループのAsociación Vivamos Mejorや野生生物保護協会と協働しました。

オーデュボンとそのパートナーは地元の文化と言語に合わせたバードガイド養成カリキュラムを開発し、また基礎的な業務、もてなし、言葉のトレーニングコースも提供しました。同プログラムは野鳥ガイド用機材や歩道の開発などの支援も行いました。その目的は各地でエ地元の熟達した野鳥ガイドや通訳、宿泊施設、食事、関連商品とサービスを提供するバードウォッチング・サイトのネットワークを構築することでした。

さらに、上記のようにして準備したエコツーリズムを告知するため、オーデュボン協会は会員に対し、バードウォッチング休暇を多くの旅行客が行く場所ではなく、バードウォッチングと同時に保護区周辺で生活に苦労しているコミュニティも支援できるプランとして提案しました。

これまでに275人以上が基礎的ガイドの訓練を受け、70人以上が上級コースを完了しました。ガイドだけでなく400人以上の地元の事業主が訓練に参加し、5,500人の子供が環境・野鳥教育講座に出席しました。同プロジェクトにはこれ以外の利益もありました。野鳥の個体数調査やセンサスなどの市民科学イニシアティブの能力を強化し、またIBAモニタリングを支える野鳥観察のオンライン・データベースであるeBirdにも120人が参加することとなったのです。

同イニシアティブはバードライフのフライウェイ・プログラムの取り組みともピタリと合致するものです。同プログラムは、渡り鳥にとって重要なIBAのつながりを守り、その渡りルート上の脅威を減らすことを目標としているからです。同イニシアティブの対象エリアにはこの地域で最も危惧される生態系が含まれており、鳥にもバーダーにとっても良いニュースといえます。そのような地域には北アメリカのバードウォッチャーに馴染みのある渡り鳥が生息しているのです。

オオトカゲカッコウ(別名キューバトカゲカッコウ)
写真提供: (via gailhampshire/Flickr)

例えばアンドロス島では世界を旅するフエチドリや留鳥のオオトカゲカッコウなどを見ることが出来るでしょう。

また同島はバハマムクドリモドキ(絶滅危惧ⅠA類)、バハマツバメ(絶滅危惧ⅠB類)、ハシグロリュウキュウガモ(絶滅危惧Ⅱ類)など多くの世界的絶滅危惧種の生息地です。これらの鳥の生息域は限られているので、島の自然環境の保全は彼らの生存にとって非常に重要です。

試験的な取り組みが成功したため、オーデュボン協会は同プログラムを南北アメリカ各地に拡大させ、まず最初にコロンビアのカリブ海沿岸で活動を開始しました。USAID(米国国際開発庁)とコロンビア政府の支援により、同イニシアティブはすぐにもコロンビア全土でも行われる予定です。コロンビアは他のどの国よりも鳥の種類が多いのです。「私たちは鳥を基盤にしたツーリズムが生物多様性の豊かなエリアの近くに住むコミュニティの所得を増やすことが出来る経済的代替策であり、同時に自然資本を守ることができることを証明しました。」とJefferyは言っています。

アンドロス島に話を戻すと、バードガイドのカーリーン・ウッズは来年は良い年になるだろうと期待しています。「島の経済を一晩で変えるような急な変化ではないでしょうが、実施可能だと思います。現に客が増えています。」

「あのハリケーンは酷いものでしたが、次の日には庭にゴシキノジコが飛んで来て、素晴らしいさえずりを始めたのです。あれこそ気持ちを明るくしてくれるものでした。」と今でも前庭に積み重なっている瓦礫を見ながら彼女は言いました。

 

報告者: Tom Clynes

 

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