消えゆく者たち: 欧州の農耕地の鳥

タゲリ 写真提供: (c) Andy Hay

バードライフ・ヨーロッパ&中央アジアの保護部のヘッドが、いかに集約的農業によって農耕地の鳥が欧州で最も危惧される鳥のグループになってしまったかを説明します。

かつてはこうした鳥の姿や声は、薄暗い空や野山を通る風と同じくらいにどこにでもありました。田舎を歩けば彼らのまばゆい姿を目の端で捕えることができました。彼らの奏でる音楽は生垣や牧草地にいる私たちの心に潤いをもたらしてくれました。私たちが彼らの住処を破壊するまでは…現在、かつての農耕地の普通の鳥は普通の存在ではなくなってしまったのです。

今となっては、ハタホオジロが足をブラブラさせて素早く飛び立つところや、優雅なツメナガセキレイが細く黒い脚で田んぼを走るところを見るのはますます珍しいことになってしまいました。かつてはたくさんいた、顔が目立つオレンジ色で尾が栗色のヨーロッパヤマウズラも今では稀にチラッと見られる程度です。みなさんが素晴らしい冠羽を持つタゲリを最後にご覧になったり、ディスプレイする声をお聞きになったりしたのはいつのことでしょうか?今日、何人の人がこの象徴的な声を知っているでしょうか?フクロウ、オオソリハシシギ、ウズラクイナ、ダイシャクシギはどうですか?あるいはアカアシシギ、マミジロノビタキ、キバシヒワ、キアオジはどうでしょうか?愛鳥家にとって農耕地は失われた楽園の悲劇の象徴になってしまいました。

ツメナガセキレイ
写真提供: (c) Tom Shevlin

農耕地はEUの陸地の45%を占めていますが、その生物多様性は急速に忘却の彼方に消えようとしています。状況は控えめに言えないほど深刻で、モニタリングと行動の両方が必要です。多くのバードライフ・パートナーが重要な役割を果たしているEBCC(欧州野鳥センサス協議会)は欧州28カ国で160種の普通種に関するデータの照合を進めており、欧州の生物多様性の将来を理解するのに重要な役割を果たしています。これらのデータから、憂慮すべき未来が予測されています。農耕地の鳥の個体数は、過去30年で55%という驚くべき勢いで減少しています。記録を取り始めてから現在が最も低い状態で、農耕地の鳥は欧州で最も危惧される鳥のグループの一つとなってしまったのです。

ヨーロッパヤマウズラ
写真提供: (c) Eddie Dunne

数えきれないほどのたくさんの科学的研究により、農耕地の鳥の減少はEUの共通農業政策(CAP)とそれによる補助金制度によって進められた集約的農業が大きな原因になっていることが証明されています。自然の営巣地が、広範囲にわたる生垣の伐採、湿地の干拓、牧草地や休閑地などの未耕作地への作物の植え付けなどにより破壊されています。農薬も大きな要因となっています。殺虫剤と除草剤が昆虫を殺し、種子の生産を減じ、鳥の食物を減らしており、有機塩素系殺虫剤は繁殖の失敗を誘発します。そのうえ、肥料によって草の成長が速くなったことも草地に営巣する種に影響を与えているのです。雑穀類の耕作の時期が春から収穫直後の晩夏に変わり、冬季の主な食料だった落穂が冬のやってくる遥か前に食べ尽くされてしまうようになりました。穀類の収穫、種まき、栽培が総じて早まり、農耕作業が鳥にとって最悪の時期である、繁殖期に行われるようになってしまったのです。つまり、様々な穀物を栽培する農法から畑ごとに単一の作物を作る農法へと変化したことがタゲリやヒバリなどの様々な穀類を餌とする鳥に大きな影響を与えたのです。

アイルランドの農耕地の鳥の減少
資料提供: バードウォッチ・アイルランド
四角の枠内に記載された折れ線グラフの色を示す種名は上から:
ヨーロッパヤマウズラ、ウズラクイナ、タゲリ、ダイシャクシギ、アカアシシギ、メンフクロウ、マミジロノビタキ、キバシヒワ、キアオジ

事実、EU加盟国間の農耕地の鳥の減少の相違はもっぱら国内の穀類生産量の違いで説明できます。ソ連崩壊後から集約農業が縮小している中央および東ヨーロッパの非EU加盟国では農耕地の鳥の状態が改善していることや、新規のEU加盟国では加盟後に鳥の減少が起きていることからもお分かりでしょう。

他に明らかになったことは、1995年以降英国での個体数が95%も減少しているコキジバトの事例です。この長距離飛行をするコキジバトの最大の障害はアフリカを行き来するフライウェイにあるとお考えになるかも知れません。しかし、調査によると、実際は集約農業が北ヨーロッパの繁殖個体群の絶滅が現実となりうるほどに追い詰めていることが示されています。

コキジバト
写真提供: (c) Eric Dempsey

CAP(共通農業政策)には‘環境に優しい対策’といって、補助金を一定の環境保全と結びつけることにより集約農業が引き起こす環境の損傷を最小化するように計画されたAES(農業・環境スキーム)という制度があります。確かに、このようなスキームは欧州の農耕地で一生を過ごす普通種の個体数減少を多少は緩和しますが、集約農業の悪影響を補うというには程遠く、個体数減少を喰い止めるようなものではありません。

私たちの農業政策は自然を守らなければならず、もっとうまくできるはずです。欧州の農耕地の鳥と生物多様性を救うにはCAPの改革が必要です。私たちはどんな道をたどることになるでしょうか。昔からの‘賢いフクロウ’のように私たちの共通の未来に対して首尾よくやれるのでしょうか。それとも、最後のコキジバトがいなくなるまでダチョウのように頭を砂の中に突っ込んでいることになるのでしょうか?みなさんにヒントをお教えしましょう。ダチョウは欧州の鳥ではないのです。

報告者: Iván Ramírez

 

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