トヨタ環境活動助成プログラム(2018~2019): ミャンマー ヘラシギの越冬地における生態調査と保全

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バードライフ・インターナショナル東京は、2017年度トヨタ環境活動助成プログラムの支援を受けて、ミャンマーのパートナー団体であるBiodiversity and Nature Conservation Association(BANCA)と共同で、絶滅危惧種のヘラシギ等の渡り鳥の保全を進める活動を実施しました。2016年度に同助成プログラムの支援を受けたタイでのヘラシギ保全プロジェクトとの連携を図り、相乗的な効果の発揮を目指しました。

背景

ヘラシギは、世界に500羽程度しか残っておらず、このままでは今後5~10年で絶滅する可能性が高いと言われています。ミャンマーには、ヘラシギの生息地となる干潟が比較的良好な状態で多く残っており、ヘラシギの約半数が越冬すると考えられています。しかし、これまで詳細な調査が行われておらず、正確な分布や個体数、利用環境などの保全に必要な情報が不足しています。また、保護区の設立など法的整備も遅れているほか、地域住民の間でも干潟や鳥類の保全に対する認識が弱く、地域住民主体の保全体制が根付いていません。


活動地域

概要

本プロジェクトでは、ヘラシギが多く飛来することが知られているモッタマ湾、エーヤワディ河口域、タニンダーリ地方の3地域を対象に、ヘラシギの個体数や生態を明らかにするとともに保全上の課題を特定しました。さらに各地で地域住民と連携した保全体制を整備するとともに、保護区設立に向けて地方行政や関係省庁に提案をしました。

目標達成のため、主に下記の活動を実施しました。

①活動対象の3地域において鳥類調査を実施し、ヘラシギや他のシギ・チドリ類の個体数や分布を明らかにする。

②地域住民や地方行政との交流を通じて、保全上の課題を明らかにする。

③保護区設立に向けた基礎情報を収集し、地方行政や関係省庁との協働を開始する

④タイのパートナー団体であるBird Conservation Society of Thailandとのワークショップを開催し、ヘラシギ保全における連携を協議する。

⑤中小規模の環境保全プロジェクトに特化した活動評価ツール「PRISM」を用いてプロジェクトの評価を行い、今後の活動に向けた課題を抽出する。

 


モッタマ湾の干潟

 

主な活動内容

  • モッタマ湾、エーヤワディ河口域、タニンダーリ地方の3地域での鳥類調査
  • 学生に対する鳥類調査の研修
  • 地域住民への意識調査
  • 地域住民に対する普及啓発
  • 地域住民の保全活動グループの編成・研修
  • 保護区設立に向けた基礎情報の収集
  • 地方行政および関連省庁への保護区設立に向けた取り組みの提案
  • タイのパートナー団体BCSTとのワークショップの開催

得られた成果

(1)ヘラシギ調査

2018年3月、12月、2019年1月に、それぞれ約1週間~10日間、活動地にてヘラシギの個体数や分布など詳細な生態調査を行い、得られた情報をラムサール条約湿地情報票(RIS)の作成、保全計画策定に用いました。2019年1月の調査では、水鳥64種、136,383羽を記録し、ヘラシギの個体数は112羽と推定されました。また、14羽のヘラシギには足環がついていて、それらがロシアや中国の地域へ渡っていることが分かりました。

 


モッタマ湾での鳥類調査の様子

 


調査船団

 

(2)ラムサール条約湿地登録ラムサール条約湿地登録エリア拡張のための合意形成

2017年、モッタマ湾の42,500ヘクタールに渡る地域が、最初のラムサール条約湿地として登録されました。本プロジェクトでは、それを161,030ヘクタールまで拡張するため、中央政府、地方政府、地域住民を始めとする利害関係者間の合意形成を行いました。最初の登録時は合意形成を得るのに3~4年もの時間を要しましたが、今回は3~4か月程の短期で合意に至り、ラムサール条約湿地情報票を条約事務所に提出し登録申請をすることが出来ました。現在は審査結果待ちの状況です。拡張エリアが条約湿地に登録された暁には、より効果的な保全活動の実施が期待されます。

 

 

(3)地域住民グループによる持続的な保全体制構築

モッタマ湾沿岸地域に発足した地域住民で構成される7つの「保全活動グループ」に対し、啓発活動、研修、資材供与等の支援を行いました。これにより、グループメンバーが自らパトロール等の活動計画を立ててヘラシギ調査、密猟者の通報、結果報告を行う体制が整いました。今回の視察の際にアンケートを行った結果、メンバーや近隣村の地域住民は、保全活動グループ設立前にヘラシギのことを全く知らなかったのが、現在、メンバーは勿論のこと、地域住民のヘラシギ認知度が60-80%程度まで上がり、地域を巻き込んだ保全体制が構築されていることが確認出来ました。


密猟者を発見したメンバー


メンバーへのアンケート調査

このプロジェクトは、「トヨタ環境活動助成プログラム」の助成を受け活動しました。

 

【関連リンク】

【視察報告】ミャンマー ヘラシギの越冬地における生態調査と保全(2019年9月4日)

ミャンマーのシギ・チドリ類が4倍の保護区を獲得(2020年4月15日)