EU本部の顔の見えない‘法律専門家’が欧州の自然に果たしてきた役割

鳥もちに掛かったシロクロモズ
写真提供: (c) RSPB Images

野生生物は政治的な国境という概念を持っていません。私の住んでいるイングランド東部の村の近隣の畑で毎年鳴いているカッコウ(およびその子孫)は、この地域の餌場と、春秋の渡りの時期に立ち寄るフランスやイタリアとを区別することはしません。家の裏にある古い森で見られる珍しい野生の花や昆虫は、大西洋岸ヨーロッパの大部分の地域に分布しています。これが、ヨーロッパの自然の範囲と多様性を守るためには国を越えて行動しなければならない理由です。このような方法で活動することは、英国での経済活動がフランスやスロベニアと同じ環境基準に従うことにつながり、それによってビジネスにおいて公平な場を作ることにもなるのです。短期的な経済的利益のために自然環境を損なって有利な立場に立つ国は無くなるのです。

EU野鳥指令および生息地指令は、自然保護のために超国家的な法的バックボーンを提供するもので、ヨーロッパの動植物とその生息地を‘好ましい保全状態’に保つという目的を持っています。野鳥指令について言えば、施行されてからすでに35年以上経っています。この期間、欧州裁判所(ECJ)は自然指令の法的解釈を提供する重要な役割と、EU加盟各国の法律への組み込みとその施行においてECJの解釈が確実に反映されるように監督する役割を担って来ました。

バードライフ・パートナーが定めたIBA(重要生息環境)を、加盟国において野鳥指令に基づいて特別保護区(SPA)を選定する際の基準にするべきと認めたのが、ECJでした。同様にそれはEU加盟国が鳥にとって最重要な場所を客観的かつ科学的な根拠に基づいて保護区を指定することにつながります。加盟国が経済的あるいは政治的なご都合主義によって重要な地域をSPAから除外することのないようにしたのはECJでした。これまでは、英国のラッペル・バンクは国際的に重要な干潟でしたが、港の駐車場に変更するためにSPAから外され、スペインのサントナ湿地もSPAから外されて道路建設が認められた事例がありました。

オランダのワッデン海で行われている経済活動(この場合はザル貝漁)が適度に制御、規制されナチュラ2000サイトに長期的なダメージを与えないこととした例も欧州裁判所(ECJ)の判決によるものでした。他にもナチュラ2000サイトに影響を与える可能性のあるプロジェクトが適切に実施されるように規制する厳しい判例があります。例えば、スペインのM-501道路やブルガリアのカリアクラ風力発電所などです。ここでの判決は、損傷や攪乱を受けたナチュラ2000サイトの種と生息地の保全のために定められた手順が守られておらず、その結果生じたこれらのプロジェクトによるダメージは本来の状態に正されねばならないというものでした。

欧州裁判所はまた狩猟規制を施行する上でも重要な役割を持っており、野鳥の狩猟シーズン外の捕獲禁止や、狩猟対象種でない鳥の捕獲に対する法律の強化と適切な理由による正当化を監視しています。別の例では、イタリアとマルタ共和国での密猟を直ちに停止させる暫定的処置を下したことさえあります。

違反に対する事前訴訟の仕組みと欧州裁判所(ECJ)の手続きは面倒なものになりそうです。裁判手続きが終わり、罰金が科せられる時には、既に自然への損傷が起きてしまっていることがあります。それでもECJが自然指令の解釈と施行を行い、その他の欧州の環境に関する法によって私たちの共通の自然遺産の富の減少を遅らせ、停止させ、時には復元してきたことは明白です。1979年以後のECJの活動が無ければヨーロッパの自然は今よりはるかに貧弱なものになっていたでしょう。願わくば、野鳥・生息地指令のREFIT(Regulatory Fitness and Performance: 定期的な適合・パフォーマンス評価)のプロセスの結果が自然指令の完全実施と法定強制をさらに確固たるものとし、同指令がなお一層効果的になり、その結果ECJの役割が次第に小さくなっていくことを期待しています。英国においては、Brexit(英国のEC離脱)により自然に対する法的枠組みがどのようなものになろうとも、私たちは他のEU加盟国と共に欧州共通の自然遺産を守るという英国の普遍的義務を確実に行うことが必要です。 

 

報告者: Daniel Pullan

 

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