幽霊を追って:科学技術の貢献

シロハラチュウシャクシギ、1995年モロッコにて 写真提供: © Chris Gomersall

シロハラチュウシャクシギは1995年以降観察されておらず、絶滅した可能性が極めて高いです。けれども本種を抹消する前に、私たちは散らばった個体群の、広大で荒れた繁殖地を徹底的に調べ直す必要があります。古い標本の羽毛に残る微細な原子を調べる画期的な科学技術が、何処を調査すれば良いかを教えてくれます。

そもそも繁殖地が分かっていない絶滅危惧ⅠA類の種の営巣地をどのように調べたらよいのでしょうか?

これは世界に最後に残ったシロハラチュウシャクシギの個体群の追跡をしようとしている保護活動家が行わなければならない重要な作業です。

この失われた種の探索範囲を狭めるために、バードライフの雑誌「Bird Conservation International」に掲載されたRSPB(英国のパートナー)のスタッフが関わっている新しい論文では、広大なシベリアの荒野のどこで調査を始めるべきかを特定するために、標本の羽毛から取った微小な原子から集めたデータが使われています。

個体数が多かった時ですら、どこで繁殖していたか知らなかった場合、絶滅したと思われる種を調べるにはどうすれば良いのでしょうか?

この中型のシギをちょっと見るために、いつもこのように精巧な方法を用いているわけではありません。19世紀の初めには、シロハラチュウシャクシギは中東、北アフリカ、中部および東部ヨーロッパではどちらかと言えば普通種でした。

けれども彼らが数多くいた時でも、その繁殖習性はよく分かっていませんでした。彼らが春には隔絶した中央アジアに行くことは分かっていましたが、その先については不明でした。現在までに記載されたシロハラチュウシャクシギの巣は、1910年代と1920年代にシベリア、オムスクのタラの町近くで発見された数例しかありません。

多少の知識に基いて推測はできますが、彼らの急速な減少の正確な理由もあまり分かっていません。まず浮ぶ影響の一つは、19世紀末から20世紀初頭に越冬地で、広範囲におよぶ狩猟です。また、地中海と北アフリカにおける湿地の集中的な排水が、この渡り鳥への更なる圧力となりました。けれども繁殖地における本種の脅威は、ほとんど分かっていません。

いずれにせよ、悲惨なことにシロハラチュウシャクシギは越冬地には、全く現れなくなりました。確実な観察は1995年2月のモロッコでのもので、その後もフランスやウクライナなどからの観察報告はありますが、本種の姿は普通種のダイシャクシギチュウシャクシギに似ているために識別は難しいです。

数が減るのに伴い、群を作る習性のあるシロハラチュウシャクシギは類似種の群に混じり、識別がほぼ不可能になった可能性はあります。そして、1852年に最後のオオウミガラスが撃たれて歴史書に加わって以来、ヨーロッパ初の絶滅種になった可能性もあります。

確実に知るために、私たちは彼らの有力繁殖地を徹底的に調べる必要があります。たとえシロハラチュウシャクシギの発見に失敗したとしても、繁殖習性についての知識やその絶滅原因が分かれば、同じ運命を辿る可能性のある他のシギ・チドリ類を保護する活動に役立てられます。

シロハラチュウシャクシギはオオウミガラス以来の初めてのヨーロッパでの絶滅種となるだろうか?
イラストはJohn James Audubon

この調査には世界中から寄贈された35羽のシロハラチュウシャクシギの羽から採取した安定同位体分析が用いられました。これらの原子は食物や水など環境内にある微小な痕跡で、鳥が食べて体組織に移され、その後羽根が作られた時にその一部になるのです。幼鳥、即ち、最初の渡りの準備をして繁殖地にいる若い鳥の同位体を分析することにより、サンプルと世界中の同位体マップとをキャリブレーションすることができました。その結果、調査チームは、それらの幼鳥が最初に羽根を作った場所を見つけることが可能になったのです。

調査チームは、同位体中の水素原子を調べることによりその鳥の身元を判別することが出来ました。「重水は通常の水とは異なっていて、その中の水素は余分の中性子を持っています。赤道から離れるほど通常の水に対する重水の比率は下がります。私たちが本種を特定の緯度帯に配置するために利用したのが、この定まった比率です。」とRSPBの主任保護科学者で論文の著者の一人のGraeme Buchanan博士は説明しました。

上図:シロハラチュウシャクシギの繁殖可能エリア。これはアイソスケープ(Isoscape: Isotope と Landscape を組み合わせた造語)との比較で羽根のサンプルのδ2H値に基づいてセルに割り当てられた幼鳥の数に基づくものである(Buchanan et al 2017)。★印は5月から7月の間における調査地での鳥の観察場所を示し、+印は同期間で撃たれた鳥を示す。破線はOlsenらによる生態地域の境界を示し(2001年)、●は唯一の既知の営巣地を示す。

この調査結果は、長年疑問に思っていたことを明らかにしました。私たちはずっと間違った場所を見ていたのです。シロハラチュウシャクシギの昔からの繁殖拠点は、唯一の巣が発見されたオムスクではなく、それよりも南のカザフスタンとロシア南部の草原および草原/森林です(実際には「でした」と過去形で言うべきか)。標本から推定された別なエリアとしては、ウラル山脈の北側が特定されました。「このことは、シロハラチュウシャクシギの繁殖習性にはある程度の特殊性があることを示唆します。以前は森林/草原性の種だと考えられていましたが、今回の発見から、本種がより草原環境の種であることを示唆します。」とBuchanan博士は述べました。

今回の発見は驚きでしたが、それはまさに複数の保全家の集団が長年信じてきたものを裏付けするものです。「過去に本種の繁殖地はもっと南ではないかという提案がありました。19世紀末にグラスゴー大学のグループが、シロハラチュウシャクシギを探しにこのエリアへの遠征をしましたが、発見できませんでした。長い間そのように推測されていましたが、今回の研究はここが探索すべき場所だと明らかにした初めての証拠なのです。」とBuchanan博士は述べています。

私たちは失敗した調査で決してやる気をなくすべきではありません。私たちは緯度を特定でき、繁殖可能地は今も広大な帯状に広がっており、恐らく50羽以下と思われる鳥の繁殖地を見つける見込みはあるのです。しかしユーラシア大陸の草原は、私たちから鳥を隠してしまいます。2000年に行われた同じ地域での調査では、200~600羽と推定されていたマミジロゲリの世界の個体数よりはるかに大きな個体群が見つけました。

マミジロゲリ
写真提供: via Wikicommons

シロハラチュウシャクシギの発見を期待するのは現実的でしょうか?この場所の環境条件は、一年中留まる鳥にとって厳しすぎます。ご存知のように1995年以後完全に立証された観察例がありませんが、彼らは今でも渡りを必要としています。けれどもBuchanan博士は、本種が今でも南へ旅をしている可能性は十分にあると示唆します。「本種には北アフリカの一部を含む広大な越冬地があり、その大部分は詳細な調査が行われていません。ですからまだ地中海地域に渡っている可能性は残っています。ただし、個体数があまりにも小さく、私たちがほとんど知らない、調査が行われていないエリアに行くのです。」

シロハラチュウシャクシギの再探索を計画するとすれば、時間が重要です。本種の絶滅につながる減少要因としてはコアな繁殖地の喪失は重要ではないと考えられていましたが、研究結果からこの想定も考え直す必要があります。北部カザフスタンの草原のかなりの部分が農業用地として耕作されており、土壌の質が悪い所しか残されていません。このような土地利用の変化はこの地域の多くの草原の鳥の減少につながっており、そのリストにシロハラチュウシャクシギも加わることになりそうです。

いずれにせよ、私たちはシロハラチュウシャクシギの生き残りへの希望を諦めるわけには行きません。最後の記録から22年の経過はあまりにも長いと感じるかもしれません。しかし、チュウシャクシギの亜種であるソウゲンチュウシャクシギ(Steppe Whimbrel:和名未定につき仮称)は、1994年に絶滅したと考えられていましたが、ロシアやさらに近年はモザンビークで観察されました。つまり、絶滅種の探索には、たとえ僅かでも常に希望があるのです。

 

報告者: Alex Dale

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