タイのハゲワシを復活できるか?

ミミハゲワシ 写真提供: © Shutterstock

記録上、史上最大の鳥の減少が起きてしまいました。リョコウバトドードーが絶滅してしまったときの減少速度よりも速いのです。1990年代以後、なんとアジアのハゲワシ類の個体数の99%が消失しました。数百万羽いたものが数千羽へと一気に減少しました。

この急激な減少の結果、アジアのハゲワシ類、ベンガルハゲワシミミハゲワシハシボソハゲワシインドハゲワシの4種は絶滅危惧ⅠA類に分類されています。これは危惧カテゴリーの最も高いランクで、もし何も対策を取らなければ、私たちが生きている間にアジアの空から姿を消すでしょう。

インド亜大陸でのハゲワシの減少の主要因は、病気のウシや老齢のウシの痛みや筋肉疲労を抑制するのに使用される獣医薬ジクロフェナクだと広く公表されています。不幸なことに、この薬がハゲワシに致命的であることは証明されています。ハゲワシは、ジクロフェナクを処方された後に死んで野外に放置されたウシの死骸を食べた結果、南アジアでの大量死が起こったのです。

幸運にもジクロフェナクの使用は現在インド、ネパール、パキスタンでは禁止されており、「安全地帯(存続可能な個体群が拡大できるように、半径100㎞以内では脅威となるものが抑制される地域)」などの仕組みが導入されたお蔭でインド亜大陸ではやっとハゲワシの個体数が安定して来ました。しかし、ジクロフェナクが問題となっていない他の国でもハゲワシが激減したのは何故なのでしょうか?また、彼らを復活させることは出来るのでしょうか?

ベンガルハゲワシ
写真提供: © Lip Kee

他の東南アジアの国々と同様、タイのハゲワシにとってはジクロフェナクは問題になっていません。この薬はどこの薬局でも購入が可能で、クリームやタブレットの形で販売され、ウシではなく人に処方されます。それにもかかわらずハゲワシの状況はインドよりも悪いのです。渡り鳥のクロハゲワシヒマラヤハゲワシは今でも毎冬見ることが出来ますが、かつては留鳥だった3種(ミミハゲワシ、ベンガルハゲワシ、ハシボソハゲワシ)はタイでは絶滅しました。

3種のうちミミハゲワシは最も数が多く、埋葬がまだ普及しておらず、火葬されるまで死体が野外に置かれていた1960年代末~1970代初めには、バンコクの中心地でも見られたほどでした。19世紀に起きたバンコクでのコレラの大流行を忘れないために、死体を食べているハゲワシの像が「黄金の丘(ワット・サケット)」に立てられたことからもそれがよく分かります。ハゲワシが居なくなった今もこの像は同じ場所に残っているのです。20世紀のこの国の近代化の時までハゲワシは死骸を食べていました。墓地への埋葬が普通になった今、ハゲワシは食糧不足に苦しんでいます。

狩猟、密猟、生息地の破壊も大問題となっています。ミミハゲワシがタイで最後に見られたのは今から25年前のフワイ・カーケン野生生物保護区でした。この時期、ハンターがトラ猟の新しい方法として、農薬で毒殺したサンバー(シカの一種、トラの格好の獲物)を使用し始めました。この方法により、ハンターは銃弾の穴のないトラの皮を手に入れることが出来たのです。悲しいことに正に最後のミミハゲワシの約12羽の群がこの死骸を食べ、その結果全て死んでしまいました。狩猟と薬害は、人々の健康や、衛生、家畜屠殺設備の改善が進んでいたタイの状況に適応できずにいたハゲワシにとって最後の一撃となりました。

Huay Kha Khaeng野生生物サンクチュアリのバンテン(野牛の一種)とサンバーの群。ここにミミハゲワシの再導入が提案されている。
写真提供: © Tontan Travel / Flickr

けれどもこの堂々とした猛禽がもう一度タイの空を舞う可能性はあります。2016年6月、タイ動物園協会(ZPO)はカセサート大学、国立公園局、野生動植物保護協会(DNP)およびタイ鳥類保護協会(BCST: タイのバードライフ・パートナー)と協力して、フワイ・カーケン野生生物保護区にミミハゲワシを戻す計画を策定する作業を始めました。この計画は動物園で飼育・繁殖しているこの絶滅危惧ⅠA類のミミハゲワシの正に最後の群を2018年に自然に返すというものです。2018年まであと僅かですがこの計画を実現するには長い道のりがあります。

ZPOは捕獲・繁殖と再導入プログラムの経験が豊富で、過去数十年の間にターミンジカ、オオヅル、キタカササギサイチョウなどの哺乳類や鳥類の野生復帰活動を行って来ました。しかし、ミミハゲワシは飼育下での繁殖、営巣、雛の孵化が非常に難しく、難題なのです。

ZPOは、ミャンマーとの国境に沿った60万ヘクタール以上の面積があり、豊かな生物多様性が残されたユネスコの世界遺産であるフアイ・カーケン野生生物保護区を再導入場所として選びました。同保護区は比較的手付かずの状態が保たれており、東南アジアのほぼすべてのタイプの森林があります。また、この地域に見られる大型哺乳動物(特にゾウとトラ)の77%、大型鳥類の50%および陸生脊椎動物の33%を含め、多様な動物の生息地となっています。ハゲワシの小群を維持するのに十分な餌があるはずです。

DNPのトラの専門家Saksit Simcharoen博士によれば、この保護区内には現在150~200頭のインドシナトラおよびインドシナヒョウが生息しています。トラやヒョウは少なくとも週に一度は狩りをするので、週当たり150頭以上の動物の死骸が生み出されることになります。Simcharoen博士は保護区内にある多数の死骸はこれからのハゲワシの個体群を支えるのに十分な量だと考えています。長期にわたる献身的活動が必要になるでしょうが、チームはミミハゲワシをタイに取り戻すことに情熱を注いでいます。この目標が達成されれば、ミミハゲワシを絶滅から救うことにつながるでしょう。

 

報告者: Dr. Boripat Siriaroonrat and Kaset Sutasha, BCST(タイ鳥類保護協会)

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